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第91話 国王の決意 1483年(1943年)11月18日 午前8時 カリフォルニア州サンディエゴ その日、ウォルデン・エインスウォース少将は病室で朝刊を読んでいた。 「シホールアンル軍、カレアント公国から完全撤退か。カレアントを失ったとなると、シホットの南大陸侵攻軍もそろそろ終わりだな。」 エインスウォースはそう言ってから新聞を折りたたんだ。彼は視線を窓に向けた。 窓からは、サンディエゴ軍港に停泊している艦艇群が一望できる。 エインスウォースはその中の1隻に視線を止め、次いで双眼鏡でその艦を注視した。 「ブルックリンの修理も、早々と終わったな。あんな状態からよく修理できた物だ。」 エインスウォースはどこかしんみりとした口調でそう呟いた。 ブルックリンは、彼が1ヶ月前まで指揮していた、第61任務部隊第3任務群の旗艦であった軽巡洋艦である。 そのブルックリンは、1ヶ月前のマルヒナス沖海戦でシホールアンル海軍の巡洋艦と対決し、6インチ砲塔の全てと左舷側に多大な損傷を受けた。 判定の結果、ブルックリンは大破とされ、本国に戻って修理を行った。 それから丸1ヶ月経った今日、傷付きながらも修羅場を潜り抜けたブルックリンは、エインスウォースの前に健在な姿を見せた。 よく見てみると、ブルックリンの細部が変わっている。 ブルックリンは、舷側に5インチ単装砲が片側4基ずつ、両舷に8門を搭載していた。 しかし、今見るブルックリンは、ヘレナやセント・ルイスのように、5インチ連装両用砲が片側2基ずつに纏められている。 元々5インチ砲を装備していた箇所には、新たに40ミリ機銃や20ミリ機銃が配置され、ブルックリンの対空火力が以前よりも 強力になっている事がわかった。 改装作業はまだ終わっていないのであろう。艦の所々に工員らしき人物が張り付いているのが見えた。 「船の修理は早々と終わりつつあるようだが、俺の体の修理は、まだかかりそうだな。」 エインスウォースは持っていた双眼鏡を下げてそう呟いた。 その時、ドアがノックされた。 「どうぞ!」 エインスウォースはドアの向こう側に張りのある声音でそう言う。 ドアが開かれると、カーキ色の軍服を着た海軍軍人が入ってきた。 「やあ、ミスター・メリル。」 エインスウォースは、その海軍軍人の顔を見るなり頬をほころばせた。 「エインスウォースさん。だいぶ調子がよさそうですな。これ、お土産です。」 名前を呼ばれた海軍軍人、アーロン・S・メリル少将は微笑みながら、左手に持っていた果物の入ったバスケットを見せた。 11月になってから、負傷したエインスウォースに代わって、新たにTG61.3の指揮官に任命されている。 「ほう、こいつは豪勢なものだ。」 「つまらないものですが、後で食べてください。」 「ああ。ゆっくりいただくとするよ。どれ、そっちに座れよ。」 エインスウォースはメリルに、ベッドの右隣にあった椅子に座るようにすすめる。 メリルは頷くと、椅子を手繰り寄せてから座った。 「どうだね?艦隊の様子は?」 「今の所、再編はほぼ終わりつつあります。12月までにはブルックリンとフィラデルフィア、12月の10日までには フェニックスが艦隊に加わります。それに加え、軽巡洋艦のビロクシーがTG61.3に配備されます。」 「ビロクシーの配備はボイスの穴埋めだな。」 「ええ、そうです。」 「クリーブランド級はブルックリン級並みの速射性能があるから、戦力としては期待できるな。」 エインスウォース少将はやや満足気な表情で言った。 マルヒナス沖海戦で、TG61.3は主戦力の一角であった軽巡ボイスを喪失している。 そのボイスの穴埋めとして、新たに最新鋭軽巡のビロクシーが配備された。 クリーブランド級軽巡は、既に実戦投入から1年余りが経過しているが、配備数はここ1年で8隻を数えている。 このうち7隻は、既に実戦に投入されており、対空戦闘、そして水上戦闘でも期待にそぐわぬ戦果を挙げている。 1ヶ月前のマルヒナス沖海戦でも、エインスウォース部隊の別働隊として参加した2隻のクリーブランド級軽巡が、敵の新型巡洋艦と 交戦しており、コロンビアとサンアントニオが大中破されたが、敵巡洋艦1隻撃沈、1隻大破(実際は中破程度)という戦果を挙げた。 その実績あるクリーブランド級軽巡が、TG61.3に配備される。 「ボイスの喪失は痛かったが、その代わり、頼りになるルーキーが来たという訳だ。」 「はい。ビロクシーの艦長と先日会ったのですが、艦長はボイスの仇を取ってやると鼻息を荒くしていましたよ。」 「ハハハ、そいつはまた頼もしい物だ。まあ、確かに長砲身6インチ砲の威力はなかなかな物だからな。艦を預かる 艦長にとっても頼もしい主砲だろう。艦長が鼻息を荒くするのも無理はあるまい。」 エインスウォースはそう言いながら、ベッドの右隣のテーブルに置かれたバスケットからオレンジを取り出した。 オレンジの皮は柔らかく、とても剥きやすかった。 「しかし、早く退院したいものだね。」 「何月頃まで入院なのですか?」 「早くて12月中旬までさ。マルヒナス沖海戦の時に腰を折ってな。その回復にまだ時間が掛かるんだ。全く、情けない限りさ。」 エインスウォースは自嘲気味に言った。 「いえ、そんな事はありませんよ。確かに、戦略面では負けたかもしれませんが、純粋な戦いでは我々の勝利ですよ。 エインスウォースさんの采配で、敵巡洋艦2隻に駆逐艦4隻を撃沈出来たのですから、それほど気負う事はありません。」 「だが、負けは負けさ。俺は合衆国海軍の顔に泥を塗ってしまったんだ。こうして、病院のベッドでじっとしている事は、 目的を果たせなかった俺の、当然の結果だよ。」 「・・・・・・・」 メリルは、しばらく何も言えなかった。 エインスウォースは明らかに、あの海戦で敗れた事に対して、自分の作戦指導がまずかったと確信していた。 あの海戦で輸送船団を取り逃がさなければ、シホールアンル軍の部隊にもっと打撃を与えられたのではないか? そして、陸軍部隊の戦をもっとやりやすく出来たのではないか? エインスウォースは常日頃から、そう思っていた。 更に、情報部の友人から聞いた話によると、シホールアンル軍はあの海戦の勝利を全国民に知らしめ、広報誌には アメリカ海軍も無敵にあらず。戦えば負ける海軍であると、広く喧伝しているようだ。 (あの海戦で負けた結果、敵国民の士気をも煽り立ててしまった・・・・!) エインスウォースは、それからというものの、悶々とした日々を送っていたのである。 だが、メリルのやんわりとした言葉は、エインスウォースの抱いていた悩みを、少しばかり和らげていた。 「ですが、敵は後退し続けています。むしろ、あのカンフル剤投与のような輸送作戦の成功で、シホールアンル軍は より長い時間、苦痛を味わう事になったのですよ。現に、負けているのはシホールアンルです。それに、打撃を与えた 敵巡洋艦はほとんどが、敵機動部隊の随伴が可能な巡洋艦のようです。その巡洋艦を2隻撃沈した事は、敵機動部隊が 保有する防空力に少なからぬ打撃を与えた事でしょう。決して、無意味な結果、と言う事ではないのですよ。」 「・・・・・そうか。そう言ってくれると、あの海戦で散った戦友達も、なんとか浮かばれるだろう。」 オレンジを剥き終わった。皮を剥いた果実は、とても旨そうな色をしていた。 エインスウォースはオレンジを半分割ってから、その半分をメリルに渡した。 「なかなか旨そうなオレンジだ。半分君にやるよ。」 「はっ、どうもありがとうございます。」 エインスウォースはオレンジをメリルに半分渡してから、自分のオレンジを食べた。 一口分ほど果実を剥いてから、それを口に放り込んだ。 カリフォルニアオレンジ特有の甘みと、少しばかり感じる酸っぱさが口の中に広がった。 「旨い。やはりオレンジといえば、カリフォルニアオレンジに限るな。」 エインスウォースはオレンジを食べながらメリルに言った。メリルもまた、オレンジに舌鼓を打っている。 「確かに旨いですな。」 「これどこで買ったんだね?」 「これですか?この果物は、病院から東に1マイルの所にある露天で買った物です。オレンジは気前のよい婆さんがサービスしてくれたんですよ。」 「その気前の良い婆さんに感謝だな。」 そう言った後、メリルとエインスウォースは互いに笑い合った。 「こうしてみると、海軍病院での生活も悪くないもんだ。」 「ん?それはどうしてです?」 メリルの問いに、エインスウォースは悪戯小僧が浮かべるような笑みを滲ませた。 「見舞い人から差し入れを要求できるからさ。」 「こりゃまた、オイシイ物ですな。」 そう言うと、再び笑い合った。 「まあそれはともかく。TG61.3を頼むぞ。」 「ええ、分かっております。」 メリルは、自身ありげな表情でそう言った。 「TG61.3の雪辱は必ず晴らします。例え、化け物みたいな兵器と戦うとなっても、自慢のブルックリンジャブで沈めてやりますよ。」 「ああ、頼んだぞ。」 エインスウォースはニヤリと笑みを浮かべると、右手を差し出した。 メリルはその手を握った。力強く握り返してきたエインスウォースの手からは、俺の艦隊で存分に暴れ回ってくれという思いが感じられた。 メリルとしては、やや虚勢を張ったつもりで言ったのだが、それが現実になった時、メリルは自分を呪ったのであった。 1483年(1943年)11月20日 午後7時 バルランド王国首都オールレイング バルランド国王、アルマンツ・ヴォイゼは、この日の夕刻、王国宮殿に閣僚達を集め、緊急の会議を行った。 玉座に座ったヴォイゼは、集まった閣僚達の顔を眺め回した。 「諸君、忙しい所、急に呼び出してすまない。」 ヴォイゼは、柔和そうな顔をうつむかせてから話を切り出した。 「昨日、私はアメリカ合衆国の親善大使と会談を行った。親善大使からの話によると、アメリカは近々、この南大陸連合の首脳を集めて、 首脳レベルの会談を行いたいと言ってきた。」 すかさず、内務大臣のガヘル・プラルザーが聞いてきた。 「陛下。それはアメリカ政府の意向なのですか?」 「そのようだ。アメリカ政府の考えでは、今年中には会談を行いたいと言っている。」 「今年中ですか・・・・・少々急過ぎますな。」 財務大臣のミルセ・ギゴルトが尖った口調で言う。 「第一、シホールアンル軍はカレアント公国から叩き出されたとはいえ、未だにウェンステルやレンクといった占領地に留まる可能性も あるのですぞ。南大陸のシホールアンル軍が今月中に出て行くなら話は別ですが、南大陸の戦火が収まらぬうちに話し合いをするのは、 時期尚早かと思われます。」 「いや、そうでも無いかもしれないぞ。」 ギゴルトの隣に座っていた外務大臣のルグド・ドルランが言った。 年齢はヴォイゼよりも10歳上であるが、それでも若々しく、腕の良い官僚として知られている。 「アメリカがこの世界に現れて2年余りになるが、わが連合国はアメリカに対して首脳レベルの話し合いをした事がない。会談が 出来なかったのは、今が戦時という事も有り得るだろうが、今後の方針を決めるためにも、首脳レベルの話し合いをするのは良い事であると思うぞ。」 「外務大臣の言われる事も最もだが、私は少し納得しかねるな。」 プラルザーがつっぱねるような口調で言う。 「財務大臣が言われていたが、未だに南大陸にはシホールアンル軍が噛み付いている。それに、会談を行うにしてもどこでやるのだね?」 「シホールアンル軍の事に関しては心配ないようだ。」 ヴォイゼが口を挟んだ。 「アメリカのダレス大使が言うには、現在シホールアンル軍の大半が南大陸から脱出しつつあるようだ。この調子で行けば、 早くても来月初旬、最悪でも今年中には南大陸から出て行ってくれるそうだ。」 「シホールアンル軍はそこまで後退しているのですか?」 「ああ。この事についてはファリンベが説明してくれる。」 ヴォイゼはファリンベに視線を向けた。頷いたファリンベが席を立って、現在の戦況を説明した。 「現在、わが連合軍はカレアント公国からシホールアンル地上軍の駆逐に成功し、敵部隊をヴェリンス、またはレンク公国方面に 追い詰めています。戦線の後方では、散発的に敵のゲリラ襲撃などが行われていますが、これはさほど問題にはならないでしょう。 判明しているスパイ情報を集計、分析した結果、シホールアンル軍はいまだに後退を続けており、最後尾部隊はヴェリンス南部からも 急速に撤退しつつあるとの情報もあります。この調子で行けば、敵シホールアンル軍は、早くても12月初旬までには、全軍が北大陸へ 脱出するという結論が出ております。」 「敵がこうも撤退を重ねる原因は、補給物資の欠乏故、継戦能力が低下したためであると、以前総司令官から聞いたが・・・・ どんな強力な軍でも、やはり戦う源である補給がなければ負ける・・・・か。」 ヴォイゼが噛み締めるような口調で言った。 「アメリカが登場する前までは、シホールアンル軍の分厚い補給網などはいくら断ち切ろうとしても断ち切れなかったという 話がちらほら出ていたが・・・・・それをやってのけるアメリカは、やはり凄い物だ。」 「持つべき物を持つ国は、どんな事をしても目的を果たせる・・・・そういう事なのでしょう。」 ファリンベ元帥もまた、複雑な表情を浮かべてそう言った。 「総司令官と陛下はどうもアメリカを過大評価しているようですな。」 ギゴルトが、どこか棘のあるような口調で2人に言った。 「確かにアメリカは凄い。ですが、我がバルランドは南大陸連合の盟主国です。なのに、どの戦線でも主役はアメリカ軍に取られてばかり。 しかし、それで良いのですか?」 「その通りです。元々は助っ人としてこの世界に呼んだのですぞ。その助っ人がでしゃばり過ぎては、飼い主である我々の立つ瀬がありません!」 プラルザーもまた、とんでもない事を口にした。 その言葉に、ヴォイゼやファリンベは驚いた。 「財務大臣なんと言う事を言われるか!」 外務大臣のドルランが言葉を荒げた。 「何を言われるかだと?私は私が思ったことを言っているまでだ。この会議では、閣僚は自分が思った事をまず言ってみるというのが原則である。 私は何も、文句を言っているのではない。」 それに対し、ドルランは顔をやや赤くしてから返論する。 「いや、充分に文句だぞ。本来ならば、この戦争を無視しても良いはずのアメリカは、自ら積極的にこの戦争に参加してきた。彼らアメリカが 身を粉にして働いてくれたお陰で、我々はようやく、南大陸を奪い返す所まで来たのだぞ。その恩人とも言うべきアメリカに対して、先の言葉は 明らかに言い過ぎではないのか?」 「私もアメリカの活躍ぶりには感謝に思っている。だが、今後の事も考えて、アメリカ軍ばかりに手柄を立てさせるのはどうなのか? と思って言ったのだ。」 プラルザーも負けじと返事した。 「もし戦争に勝利しても、アメリカ軍ばかりに戦果をあげ続ければ、我々バルランド、いや、南大陸連合はアメリカに対して何も出来なくなる。 彼らが領土を割譲しろと言われても、我々は断る事が出来ないのかもしれないのだぞ。そうならぬためにも、我が連合国もある程度の戦果を あげねばならん!」 「そうです!連合国軍はアメリカ軍だけではない!」 ギゴルトも声高にそう言ってきた。 「なるほど。財務大臣と内務大臣の言う事はわかった。」 ここで、ヴォイゼが口を開く。彼が喋ったのを見て、騒然となりかけた室内は静まり返った。 「確かに、わがバルランド軍にも、もっと活躍してもらいたい。その事は、私も同じだよ。だが、できんのだ。武器の装備は、 兵の携行物や部隊ごとにある大砲においても、全ての面でシホールアンル軍に劣っている。このような劣悪な装備の中で、 あたら軍を進めてもシホールアンル軍を喜ばせるだけだ。確かに9月から始まった反攻作戦で、我がバルランド軍や他の連合国軍も よく戦い、シホールアンル軍を退けてきた。だが、それもアメリカ軍が援護してくれたお陰だ。それが無ければ、我々はこうも早々と 進撃できなかっただろう。」 「・・・・・・・・・」 ヴォイゼの言葉に、皆が黙り込んだ。彼の言葉が痛いほど理解できたからである。 バルランド軍の装備は、2年前のシホールアンル軍南大陸侵攻開始時からあまり変わっていない。 ワイバーン部隊の装備するワイバーンは、ようやく満足いくものが出来、実戦でシホールアンル側のワイバーン隊といい勝負をしているが、 陸軍や海軍の装備は敵と比べてもかなり劣る。 バルランド軍だけにかかわらず、他の南大陸諸国に関しても、軍の装備状況は同じ様子だ。 この状況を憂慮した各国は、新たな策を考え始めた。 その中でも、積極的な国はミスリアルとカレアントである。 ミスリアル王国は去年の末頃から、アメリカ式の装備を受け取る方針を決めており、今年の6月から、ミスリアル本国で アメリカ軍事顧問団の指導の下、練成が始まっている。 この他にも、カレアント公国の首脳部もアメリカ製武器の購入を検討しており、立ち遅れている軍の近代化に励もうとしていた。 「私は、アメリカ側の意向を受け入れたいと思う。」 ヴォイゼは、既に決意していたのであろう。言葉の語調を強めて皆に言った。 「戦争の行方がシホールアンル有利とは言えなくなった今、これからの事を考えるには、首脳レベルでの話し合いも必要だろう。 それに、ルーズベルト大統領がどのようなお人であるかも知りたいからな。」 「話は、他の諸国に言っておるのですか?」 ドルランがヴォイゼに聞いてきた。それにヴォイゼは頷く。 「この事については、アメリカが各国に派遣した大使からその国の王へ直に話しているようだ。恐らく、今は他の国でも、私と同じように 皆を集めて会議を開いている頃だろう。」 「では、会談をする場所はどこに決めましょうか?」 「大使の話からすると、開催時期や会談の場所は、我々が会談の開催を了承するなら教えるようだ。」 その時、室内に宮殿付の侍従武官が現れた。入ってきたその侍従武官は魔道士であった。 「陛下、ミスリアル王国のヒューリック女王陛下から、緊急の魔法通信が届きました。」 それを聞いたヴォイゼは、別に驚く事もなかった。 「来たか。」 ヴォイゼは顔に微笑を浮かべてからそう呟いた。それから10分の間に、南大陸各国の首脳から、次々と魔法通信が届けられてきた。 1483年(1943年)11月23日 午後1時 ワシントンDC アメリカ合衆国大統領フランクリン・ルーズベルトは、執務室の窓から外の様子を眺めていた。 空は曇っている。外の風景は冬が近いためか、どこか寒々しさを感じるようになってきている。 時折、冷気を含んだ風に舞い上げられる枯葉が、それを如実に現しているかのようだ。 「もうすぐで冬だな。」 ルーズベルトは、どこかのんびりとした口調で呟きながら、淹れたての紅茶をすすった。 コンコンと、執務室のドアが叩かれた。 「失礼します。」 ドアの外から声が聞こえた。ドアが音立てて開かれる。 執務室に、国務長官のコーデル・ハルが入室してきた。 「おお、待ちかねておったよ。」 「はっ。大統領閣下。」 ハルは執務机の前まで歩み寄って、そこで立ち止まった。 「南大陸諸国から、首脳会談の提案について返事が届きました。」 「ほう、どのような返事だね?」 「首脳会談の開催時期と場所を教えてもらいたいとの事です。」 ルーズベルトは、期待通りの言葉を聞いて満足した表情を浮かべた。 「そうか。やはり、南大陸各国の王達も、首脳会談を開きたいと思っていたのだな。」 「わがアメリカがこの世界に召喚されて早2年が経ちますからな。その間、我が合衆国は一度も他国と、首脳レベルの協議を行っていません。」 「早2年だが、されど2年だったな。丸2年間、私が他の国の首脳と話し合わなかったのは少々まずかったかもしれんな。 だが、ようやく話し合いができる。」 ルーズベルトは紅茶をまた一口すすった後、それを机に置いた。 「今度の首脳会談では、私は各国の首脳に、アメリカが考えている事を包み隠さず打ち明けると同時に、今後の戦争のやり方について アドバイスするつもりだ。恐らく、南大陸各国首脳の中には、アメリカが戦後、よからぬ事を企んでいると思う者がいるかもしれん。 その誤解を解かねばならんな。」 「いわば、戦後のアメリカを左右する会談になる、という事ですね。」 「その通りだ。」 ルーズベルトはわが意を得たりとばかりに、深く頷く。 「それと同時に、この会談はシホールアンルの行方も左右する物になるだろう。彼らは既に気付いているだろう、アメリカと戦えば、 どのような目に遭うのかを。」 ルーズベルトの目が異様な光を放った。 「今はまだ実戦に出ていないが、来年の初めにはB-29が太平洋戦線に配備される。それに加え、来年中旬には太平洋並びに大西洋戦線で 大規模な作戦が実施される予定だ。この作戦が成功すれば、主導権は完全にアメリカ、そして連合国が握る事になる。」 「ですが、作戦を実施する前に、シホールアンルやマオンドに対して和議を申し込む事は出来ないでしょうか?」 「和議・・・・か。」 「相手が応じる可能性は低いと思われますが、少なくとも、マオンドかシホールアンル、このどちらかでも講和を結べば、軍の被害は軽減されます。」 現在、アメリカ合衆国が、開戦から今日に至るまでに出した戦死傷者、捕虜は約68000人。 そのうち、戦死者、捕虜は20200人、負傷者は47800人だ。 アメリカ合衆国軍は、敵に対してはシホールアンル軍に約30万、マオンド軍に約5万相当の損害を与えていると推定している。 計25万以上の敵兵を戦死、または捕虜、あるいは負傷させており、敵に対して自分の被った損害より遥かに高い損害を与えている。 だが、自軍の損害も68000人ほど受けている。この数字は、決して低い数字とはいえない。 人命を大事にするアメリカとしては、これだけでも高い数字である。 戦争が続くとなれば、この高い死傷者数の上に、新たな数字か加わる事になる。 それを防ぐ為には、早めに敵を攻略するか、あるいは、講和という選択肢が残される。 だが、 「それは、無理だろうな。」 ルーズベルトは、ハルの提案を受け入れなかった。 「マオンドもシホールアンルも、負けが続いて頭に血が上っている。それに、以前にも説明したが、この世界にとって、戦争に負ける事は、 死ぬ事と同じだ。ひとたび負ければ、屈辱的な言葉を吐かれ、無理矢理頭を下げられ、挙句の果てに公開処刑。 そんな事がまかり通る世界だ。当然、彼らはアメリカもそうすると思い込んでいるはずだ。それを恐れる相手に話し合いをしようとしても、 かえって煽り立てる事になるだろう。」 「確かに・・・・特にマオンドは、話を聞くそぶりすら見せないでしょうな。」 「うむ。マオンドはシホールアンルと違って、本当に性質が悪いからな。レーフェイル侵攻部隊は、あらゆる面で苦労するかもしれん。」 そう言って、ルーズベルトはため息を吐いた。 「だが、相手に提案してみるのも良いかもしれないな。」 「提案ですか?」 「そうだ。今度の首脳会談で、連合国は敵対国に対して寛大に対応し、講和をする事が出来ると伝えるのだ。」 「しかし、閣下は無理であると。」 「首脳部は無理だろう。だが、もし敵の上層部、現在の体制に不満を抱いている者がいて、その者が我々の提案に興味を持つとしたら?」 ルーズベルトは得意気な表情で言った。 「提案するだけなら、別に良かろう。駄目で元々だ。それに、敵に対しても何らかの変化があるかもしれない。」 「なるほど。」 「その前に、南大陸首脳部を納得させねばならんがね。」 ルーズベルトは苦笑しながらそう言った。 「閣下、開催時期に関してはいつ頃がよろしいかと思われますか?」 「まあ・・・・私としても考えてはいるんだが。そうだな。あちら側の意向も考えねばならぬから、とりあえずは12月中旬にしておこう。 今は暫定的にな。正確な日時は後で決めよう」 「分かりました。では、場所はどうされますか?」 「とっておきの会場がある。」 ルーズベルトはそう言いながら、一枚の写真を手にとって眺めた。 「アイオワにしよう。ちょっと変わった会場だが、シホールアンルシンパのテロも考慮に入れれば、これほど安全な会場はないだろう。」 ルーズベルトは自信ありげな表情で、ハルに言った。 ハルは、ルーズベルトが置いた写真に視線を移した。 その写真には、今では合衆国、そして、世界最強の水上艦である1隻の巨艦が映っていた。
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設定 文明が発達し過ぎて一度リセットされて数百年、ファンタジックな世界となったそこでリセット前の超科学を持った人類は前人類として人々に恐れられていた。 「田中 鹿西(たなか ろくせい)」【不死細胞】【遺伝子操作術】【超能力チップ】ファンタジーの世界において自らの細胞から松阪牛を作り上げステーキを貪るハイパーニート。化物と恐れられ、懸賞金がかかっている。 新人類「前人類は恐るべき存在、倒すか利用せよ!」 前人類「新人類必死すぎワロタ」「まとめで見た」「フォロー外から失礼します」
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外伝『背負いもの』 レンク公国エンデルド 戦争景気に沸き立つこの港湾都市、その一角にある革製品を商う店『ムーズレイ商店』。各国の軍人たちに人気のこの店の奥にある工房で、二人の男が肩を並べてあるものを眺めていた。 閉店時間は過ぎており、店内にも工房にも彼ら以外の人の姿はない。営業中は職人たちの手によってけたたましい音とともに布地を縫い合わせていたシンガー社製のミシンも今は動きを止め、その磨き上げられた金属パーツで窓から差し込む陽光を反射している。 「で、こいつがその客が置いてった『もの』か」 「ああ、兄貴。……しかし、これが本当に軍用の背嚢なのかい? 正直言ってかなりヘンテコだ」 二人の男――この商店を経営するボズとウォルツのムーズレイ兄弟――の目の前にはカーキ色のキャンバス地で作られた奇妙なものがあった。 一枚の正方形の布地の上辺と下辺に二枚の長方形の布地が縫い合わされ、縦長の十字型を成している。さらに正方形の布地には何本ものストラップが縫い付けられており、そのうちの二本、上側の長方形の布地が縫い付けられた側にアルファベットの"V"の字を成すように縫い付けられたそれは他のものと比べて長くて幅が広く、二股になった先端にはそれぞれ金具が取り付けられている。 「アメリカ軍の軍用背嚢だな、バルランドやカレアント、ミスリアルでも使われてる」 「こいつがそうなのか……話には聞いてたが、実物をこうして見るのは初めてだな」 二人の目の前の作業台の上に広げられた奇妙なもの、それはアメリカ陸軍においてM1910ハバーサックと呼ばれるものだった。 この世界に召喚され、そして南大陸諸国とシホールアンル、マオンド両国との戦争に参戦したアメリカ合衆国はこの戦争中、同盟国の軍隊に様々な装備を大量に供与し続けた。その実情はシホールアンル帝国が自国の新聞で「南大陸の軍隊は兵士以外は全てアメリカ製」と揶揄するほどである。 この供与されたアメリカ製装備は、それまでお世辞にも優秀とはいえない装備でシホールアンル帝国軍と苦しい戦いを強いられてきた南大陸各国軍の兵士たちから大いに歓迎され、彼らの士気と戦闘能力を大きく高めるのであるが、何事にも例外は存在するとの言葉通りに全く歓迎されなかった装備も存在した。 例えば携行性には優れるもののその不味さから不評であったKレーションは南大陸各国の軍隊でもその不味さにより様々な『伝説』を残し、この世界の人々にアメリカ料理に対する偏見を植え付けることとなる。また陸軍兵士や海兵隊員から信頼を寄せられていたM1ヘルメットはカレアントの獣人たちから「アメリカの兜は頭に合わない」「耳が痛くなる」などと酷評され、この結果カレアント公国軍の技術者たちがかの女王陛下直々の命により国産ヘルメットの開発に乗り出す羽目になっていた。 そしてこのM1910ハバーサックもまた、そういった装備の一つであった。 アメリカ合衆国が第1次世界大戦に参戦した時に大量に生産されたこれは軍用背嚢としてはかなり奇妙なデザインをしている。大抵の背嚢が袋や鞄に背負うためのストラップが付いた形をしているのに対し、これは平たい布に何本かのストラップが付いた形をしているのだ。 その使い方は大雑把に言えばまず本体である正方形の布の部分の上に荷物を並べて包み、縫い付けられている固縛用ストラップで解けないようにしっかりと縛る。そしてこれを"Y"の字を成すように縫い付けられている長2本(完成時には肩ベルトとなる)短1本、合計3本の連結用ストラップ(マニュアルでは『サスペンダー』と表記されている)で銃剣や水筒を取り付けたカートリッジベルトと連結する。 最後にこうして背嚢としての体裁を整えたハバーサックに様々なもの、ブランケットキャリアーと呼ばれる野営用毛布携行用の運搬具や食器入れなどを連結すると野戦装備一式の完成となるのだが、これを身に着けて訓練や戦闘を行った兵士たちからは当然のように不平不満が噴き出している。 曰く、背嚢としては明らかに容量不足、しかも荷造りをするのが非常に面倒 曰く、固縛用ストラップがすぐに緩むせいで荷造りした荷物がぽろぽろ落ちる 曰く、ブランケットキャリアーを連結すると座れなくなる そしてこれを大量に供与された南大陸各国の兵士たちもまた、この背嚢を様々な表現で罵った。 ある者は荷物のこぼれ落ちる様から『穴空き袋』『垂れ流し袋』とこの背嚢を呼び、またある者はブランケットキャリアーを連結すると座れなくなることから『アメリカ製起立強制具』と呼んだ。親米家の女王を戴くカレアント公国陸軍の軍人ですら『女王陛下も褒め称えるのを躊躇するレベルの出来の悪さだ』とぼやくほどである。 今兄弟の目の前にあるのはその欠陥品だった。 もの自体はアメリカ製、それも金具の錆び具合や布地のくたびれ具合から見てかなり前に製造したものを長期間倉庫で保管していたものらしい。使用されたのはアメリカ軍ではなくミスリアル王国軍らしく、所々に持ち主の名前が黒インクで書き込まれ、上蓋にはミスリアル王国の国章が大きくスタンプされている。 そして持ち主に支給されてからはそれなりの期間使われていたらしく、布地自体は保管に伴うしわや折り目が取れてしなやかになっているが、ほころびやかぎ裂きの類がとても少ないところを見ると、この背嚢の持ち主がこれを背負って戦った回数はさほど多くはないようだ。 「で、こいつを一晩で改造してくれってか?」 「ああ、袋型に作り直して、両側には大きめの物入れを追加。底は厚手の革で強化して、上蓋にも革を貼り付ける。他にも色々あるけど、細かいことはこいつに書いてある」 ハバーサックを両手でひねくり回し、金具や縫い目を仔細に観察するボズ。最近は店の経営や接客に専念しているため昔のように自らの手で革や布地を切ったり針や糸を扱うことはほとんどないが、やはり職人の血が騒ぐらしい。 そんな兄の問いかけに応えつつ客から受け取ったメモを渡すウォルツ、ボズはそれに目を通しながら考えをまとめ始める。 「ふむ、単体で使えるようにはしなくていいのか、それはありがたい。……上蓋はそのままにして革を……ふむ……物入れは一から作らなきゃならんな……ああそうだ、中蓋がいるな。となると上蓋もいじらんといかんか……そういえば物入れにも蓋が要るな……トグル、いやスナップボタン……」 自分の世界に入り込み、ぶつぶつと呟く兄を黙って見つめるウォルツ、彼にとっては久しぶりに見る光景だ。 (久々に兄貴の『アレ』が始まったか。昔から新商品や新しいデザインやらを考えだすとこうなっちまうんだよなぁ……とりあえず準備だけでもしておくか) 心のなかでそう独語すると、作業に必要になりそうな道具や材料を揃えるべくその場を離れるウォルツ。行き先は工房の隣にある倉庫(盗難対策のため頑丈な造りをしており、分厚い扉には複数の錠が取り付けられている)だ。 そして彼が倉庫にあった材料と道具箱を抱えて戻ってくると、そこにはしわの寄った数枚の紙切れにちびた鉛筆で一心不乱にデッサンを書きなぐる兄の姿があった。どうやらアイデアがまとまったらしい。 「ああ来たか……まずはこいつを見てくれ、本体の改造はこんな感じだ。それとこいつが物入れでこっちがその蓋だ。俺は本体の方に手をつけるからお前はまず物入れの方をを頼む。出来上がったら知らせてくれ」 早口でそう言いながら紙切れを押し付け、替わりにウォルツの持っている道具箱を半ばひったくるように受け取ると取り出したチョークでハバーサックのあちこちに線を引き始めるボズ。一方ウォルツはため息を一つつくと手渡されたメモに目を通しつつ作業台の上に布地を広げ、定規とチョークで線を引き始めた。 静まり返った工房に二人の職人の出す物音が響く。布地を切るハサミの出す音、その布地を縫い合わせるミシンの作動音、そして顔を寄せあって話す二人の声。しばらく現場から遠ざかっていたとはいえ、元々は腕の良い職人である二人が力を合わせたおかげで程なくしてハバーサックの改造は終わり、アメリカ製の出来損ないの背嚢はこの世界の職人の手によって見違えるような姿となっていた。 作業台に載った自分たちの力作を眺める二人、やがてボズが口を開く。その目にはいぶかるような色が見える。 「しかし理解できないな。なんで背嚢なのに袋型じゃないんだ? 荷物を布で包むのは分かる、だがなぜその包みをこんな妙な形で背負うようにしたんだ? だいたいストラップ3本で締め付けた程度じゃ歩いてるうちに包みが解けるのは当たり前だぞ。アメリカ人は何を考えてこんなものを軍用の背嚢にしたんだ?」 「こいつを預けた軍人さんも言ってたよ『アメリカ軍の連中と付き合いがあるんだが、彼らの考え方が未だによくわからん』って。とりあえず考え事は後にしてさっさと後片付けを済まそうや兄貴、だいぶ暗くなってきた」 そう言って首をひねる兄を促す弟。とうに日は落ち、工房の中は薄暗くなっている。そして二人が後片付けを終え、戸締まりをしっかりして店をあとにする頃にはとっぷりと日は暮れ、夜空には星がまたたき始めていた。 そして次の日の早朝、開店前に預けたものを受け取りに来たミスリアル軍の将校から二人は大いに感謝され、その腕の良さをほめられると同時に欠陥品の背嚢に関する愚痴やミスリアル陸軍の装備事情などをたっぷりと聞かされることとなる。 そしてこのことを聞いた二人が自分の店の新商品に工房で作らせたサスペンダーやポーチのような兵士向けの細々とした装備――もちろん米軍装備と互換性がある――を加え、新たな顧客を獲得するのであるが、それはまた、別の話である。 外伝『背負いもの』 完
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第58話 作戦会議 1483年(1943年)2月3日 バルランド王国首都オールレイング 午前9時 その日、南西太平洋軍司令官であるドワイト・アイゼンハワー大将は、海軍のキング、キンメル両提督と共に、オールレイングの バルランド軍総司令部に設けられた会議室に座っていた。 会議室には長方形のテーブルが置かれており、3人は入り口の向かい側の、真ん中辺りの席に座らされた。 3人がこの会議室にやって来たのは9時5分前であり、その時にはバルランド側の代表が席についていた。 バルランド側は国防軍総司令官のファリンベ元帥に、対シホールアンル討伐軍司令官のインゲルテント大将、それに海軍総司令官の ウルング・ヴィルバ大将がテーブルの右端に座っていた。 それから9時までの間に、ミスリアル、カレアント、グレンキア、レースベルン公国の将軍や提督達が会議室に集まった。 全員が集まった事を確認したファリンベ元帥は、椅子から立ち上がり、まずは挨拶をした。 「皆さん、ご多忙の折、このオールレイングにまでお越しいただきありがとうございます。」 ファリンベ元帥は謙った口調でそう言った後、早速本題に入った。 「さて、皆様方に集まってもらったのは他でもありません。今、南大陸に居座り続けるシホールアンル軍にいつ攻撃を仕掛け、 どのように追い出すか。今日は来るべき反攻作戦について協議を行いたいと思います。」 そう言うなり、ファリンベは一礼する。会議の参加者達も、それぞれが頭を垂れた。 「まず、反攻作戦の開始時期について協議を行います。」 アイゼンハワーは、ファリンベ元帥の言葉を聞くなり、早速来たなと思った。 「反攻作戦の開始時期は、各国の軍指導部より様々な意見が出ていますが、今の所、作戦の開始時期は2つにまとまっています。 1つは、今から1ヵ月後を目標にして準備を行うか。あるいは9月に反攻作戦を開始するか、この2つです。」 ファリンベ元帥の言葉が終わるや、インゲルテンド大将がゆっくりと、だがすかさず立ち上がった。 「現在、カレアント公国中部のループレングには総計で70万。他の戦線では合計で30万の敵部隊が配備されています。 その中で重要な役割を果たしているのは、やはりループレングに張り付いているこの70万の軍です。しかし、シホールアンル側の 南大陸侵攻軍は、同盟国アメリカの艦隊が補給妨害作戦を行ったため、物資の補給量が落ち込みつつあります。それに加えて、敵の 前線や後方には、これもアメリカ軍の航空部隊が猛攻を加えております。今、ループレングの敵軍は、昨年と比べて確実に弱体化 しているはずです。この機会を逃さずに、我が連合軍は一気呵成に反抗を開始するべきです!」 インゲルテント大将は、やや熱に浮かされたような口調でそう言い放った。 彼の言葉に同調したのか、カレアント軍とグレンキア軍の将軍がうんうんと頷く。 「我々には、アメリカという頼れる味方が付いています。去年の4月に起きたループレングの一大決戦では、アメリカ軍は 圧倒的な火力でシホールアンル軍を退けました。アイゼンハワー将軍。兵力も格段に増強された今なら、シホールアンル軍ごとき、 物の数ではありますまい?」 インゲルテントは自信に満ちた表情でアイゼンハワーに視線を移した。 アイゼンハワー大将は軽く一礼してから、口を開いた。 「勿体無きお言葉感謝いたします。確かに、我が軍の戦力は、去年よりも倍以上に膨れ上がっています。去年4月に行われた 地上戦では、確かに我が軍は圧勝しました。現状のままで構成を開始しても、敵を押し上げる事は出来るでしょう。」 アイゼンハワーは穏やかな表情で、しかし、眼つきはやや鋭くしてからインゲルテントを見据える。 「ですが、“一応、押し上げるだけ”です。」 「何ぃ?」 アイゼンハワーの言葉を口にしたインゲルテントが、僅かながらも顔を歪めた。 「ループレングに布陣する我々の軍勢はシホールアンル軍70万に対し、およそ70万近くと、ほぼ互角です。これなら、 やり方さえ間違えなければループレングからシホールアンル軍を叩き出せます。しかし、敵をカレアントから叩き出せるか? と言われれば、難しい話です。」 「ですがアイゼンハワー閣下。あなた方の陸軍は素晴らしい兵器を擁しております。特に戦車という物は強力ではありませんか。 それに、あなた方の軍には強力な航空部隊も付いておる。これなら、あなた方からしてみれば劣っている武器しか持たぬシホール アンル軍なぞ、鎧袖一触ではないですか。」 「インゲルテント閣下のおっしゃる通りです。確かに我が軍は強力です。しかし、鎧袖一触と言う訳には行きません。」 「何を言われるのですか。あなた方は今まで連戦連勝で勝ち続けたではありませんか。それとも、味方の兵を死なす事が恐ろしいのですか?」 インゲルテントは容赦の無い口調でアイゼンハワーに言った。誰もがそれは言い過ぎと思った。 キンメルの隣に座っていたミスリアル軍の代表であるマルスキ・ラルブレイト中将が不快そうな口調で言ってきた。 「インゲルト閣下。それはいささか、無礼ではありませんか?確かにあなたの気持ちは分かりますが、戦争とは相手がある事です。 戦地で散っていく味方兵を少しでも少なくするのはどこの国も同じですぞ。」 「なるほど。しかし、考えすぎて時期を逃すのは、戦術として下の下であると、私は思います。それよりも、私はアイゼンハワー閣下 と話しているのです。ラルブレイト閣下とはお話していません。」 「・・・・・・!」 一瞬、そのエルフは不快な表情を浮かべたが、すぐに何も無かったかのように元の無表情に戻った。 「インゲルテント。口が過ぎるぞ。」 「しかし総司令官閣下。攻勢の時期は今です。弱体化しているシホールアンル軍など、アメリカ軍も加えた我々なら、 8月までには南大陸から叩き出しています。この時に、各国の足並みが揃わねば、機会を永遠に失いますぞ!」 会議室は、インゲルテントのお陰ですっかり気まずい空気になってしまった。 キンメルは、インゲルテントを見て内心辟易していた。 (なるほど、これが“悪い貴族軍人”という奴か。このような輩がバルランドには多いと聞いているから、ヴォイゼ国王陛下は 大変だろうなぁ。こんなんでよく南大陸の中心国家になったものだ) 彼がそう思った時、アイゼンハワーがようやく口を開いた。 「まあまあ、ここはひとまず落ち着いてお話をしましょう。我々が集まったのは、シホールアンル軍に対しての反攻をいつ、 どのようにしてやるか。その事を決めるために集まったのでしょう?ならば、その話を続けようではありませんか。」 アイゼンハワーは、軍人らしからぬ温和な表情で皆に、特にインゲルテントに対して言い放つと、彼は改めて、インゲルテントと顔を合わせた。 「インゲルテント閣下。貴官の気持ちはよく分かります。しかしながら、貴官は間違ったことを言っておられる。」 会議室にいた将軍達の視線が、アイゼンハワーに集中された。 「まず1つめに、貴官はシホールアンル軍が弱体化していると言われました。ならば、なぜ我が陸軍航空隊は、弱体化している 筈のシホールアンル軍に対して300機以上の航空機を失ったのですか?」 「そ・・・・それは・・・・・・」 インゲルテントは思わず口ごもった。 アメリカ軍機が何機も撃墜されているとは知らされていたが、実を言うと、彼は正確な数字を知らなかった。 せいぜい100機程度は犠牲になっているだろうとしか思っていなかったのだ。 「はっきりと言います。シホールアンル軍は、全く弱体化していません。我々行ったのは敵を足止めしただけであり、実質的には 敵はまだまだ健在です。それに、敵軍には見慣れぬ新型兵器が続々と前線、あるいは後方の物資集積所に配備されつつあり、 敵は質の面で昨年よりも強化されています。」 「ですが、アメリカ軍は依然としてワイバーン圧倒できていますぞ。」 「できていません。」 アイゼンハワーはきっぱりと言い放った。 「圧倒できているのなら、とっくにカレアント上空からワイバーンはいなくなっています。しかし、敵のワイバーンは、一時は 減っても、またどこからか新手の部隊。それも腕の立つ部隊を送り込んできています。送られて来る敵ワイバーン部隊には、 勿論新兵も多く含まれているでしょう。ですが、今や敵ワイバーン部隊は我が戦闘機隊、爆撃隊の対抗策を確立しております。 このため、ここ3ヶ月間は敵ワイバーンの撃墜率は下がり続け、逆に我が航空部隊の被害は上がり続けています。 昨日のカレアント北部の空襲でも、我々は敵の後方支援施設を破壊し、ワイバーン14機を撃墜しましたが、我が方も対空砲火と ワイバーンの襲撃で爆撃機4機、戦闘機5機を失っています。」 アイゼンハワーは一旦言葉を切る。大きなため息を吐いてから、次の言葉を口にした。 「もはや、現在の戦力では昔のような、連日圧勝という事は不可能になっているのです。それにもう1つ。明らかに強化されて いるシホールアンル軍を8月までには南大陸から追い出せる、と言われましたが。この戦力のままなら、8月どころか、 10月になってもカレアントの北部で戦っているでしょう。インゲルテント閣下のみならず、皆様もなぜであるか? と思われるでしょう。答えは明白です。我々アメリカ軍が圧勝しても、あなた方の軍も勝ってもらわねば、進撃は進まぬからです。」 「貴官は我らの軍が足手まといと言われますか!?」 インゲルテントが顔を真っ赤にして怒鳴った。彼のみならず、カレアントやグレンキアの将軍、提督たちもそうだそうだと言う。 ファリンベやミスリアル、レースベルンの将軍はずっと押し黙っていた。 「あなた方の軍に、我々が持つ戦車や装甲車はありますか?銃や長射程の武器はありますか?」 アイゼンハワーの穏やかながらも、棘のある言葉に、誰もが言葉を失った。 「シホールアンル軍には戦車はありません。装甲車もありません。しかし、長射程の砲、それに、獰猛なワイバーンがおります。 我々は無論、あなた方の軍も支援しますが、それとて限界はあります。例え、全軍が勝ち続けても、侵攻速度は遅くなり、 やはりシホールアンル軍の南大陸からの駆逐は遠い先の話になります。」 アイゼンハワーの言葉通りであった。同じ世界の国同士であるシホールアンルや南大陸ですら、装備の優劣に差が出ている。 劣悪な装備しか持たぬ軍が、すんなりとシホールアンル軍を叩きだせる筈が無かった。 「ならば、敵の補給線に対する締め付けを強化すればよろしいでしょう。」 インゲルテントの左隣に座っていたバルランド海軍総司令官である、ツォルヅ・ファグ大将が言って来た。 「我々海軍には、まだまだ優秀な艦艇が残っています。これに、アメリカ海軍の全力を投入して、南大陸のみならず、 北大陸の南部沿岸に空襲や砲撃を仕掛ければ、補給を経たれた南大陸のシホールアンル軍は早々と干上がります。」 「不可能です。」 唐突に、無遠慮な口調が会議室に響いた。 その声は、それまでじっと黙っていたアーネスト・キング作戦部長のものであった。 「太平洋艦隊の戦力は充分とは言えません。それに、我々が行っている空母部隊の機動作戦や、潜水艦部隊の敵航路襲撃は、 確かに補給線を脅かす目的で行っていますが、これはいわば、嫌がらせのような物であり、敵の心理的な効果を与える事が目的でもあります。」 「ならば、わが海軍も加わり、これを一層本格的にすればいいでしょう。」 「現状では無理です。それ以前に、バルランド海軍も参加すると言われるが、満足な対空火器を所有せぬのに如何にして行動できますか? はっきり申し上げまして、バルランド海軍は今はまだ使えません。」 「キング提督!それは我が海軍に対する」 「侮辱でも何でもありません。私はただ、本当の事を申し上げている事。それに、先ほど我が軍は連戦連勝と言われましたが、 陸軍は確かにそうです。だが、海軍は昨年8月のジェリンファ沖海戦では敗北し、そのすぐ後に行われた第1次バゼット半島沖海戦でも、 運が悪ければ正規空母2隻喪失という事態も起こり得ました。幸いにも、敵が反転したお陰で勝ちを拾いましたが、それが無ければ 明らかに負けです。他の勝利を得ている海戦でも、我が軍は犠牲が絶えず、去年の10月にいたっては、海戦の規模がより大規模なために 初の正規空母喪失を経験し、少なくない航空機と艦船を失いました。あなた方が無敵と言った海軍でさえ、このような被害を受けるのです。 そこにバルランド海軍が加われば被害が拡大するのは火を見るより明らか。昨年8月16日のあの事件がそれです。」 キングの言葉に、海軍総司令官は顔を真っ青に染めた。 「鎧袖一触、ですか・・・・そうなれば心も晴れるのですがね。」 キングは皮肉気にそう言うと、口を閉じた。 「しかし、貴国はレーフェイル方面にも侵攻軍を派遣しようとしています。ですが、レーフェイルにいるマオンド軍はシホールアンルより 脅威にならず、貴国の本土にはマオンドは手も足も出せません。そのレーフェイルに侵攻する軍を、こちらにまわせば、1ヶ月後は 無理としても、2ヵ月後には戦力も揃うでしょう?」 インゲルテントは尚もアイゼンハワーに噛み付いた。 「確かにその手があります。ですが、合衆国はこの南大陸戦線と同時に、レーフェイル侵攻も重要な課題として位置付けています。 圧制に苦しんでいるのは、この南北大陸のみならず、レーフェイル大陸も同様なのです。いや、むしろきついのはレーフェイルの 被占領国でしょう。何しろ、マオンドの占領政策はシホールアンルと違ってかなりまずいようですからな。」 「ならば、アメリカ側としては、どうすれば、この南大陸で行われる反攻作戦は順調に推移されると思われます?忌憚の無い意見をお聞かせ願いたい。」 ファリンベ元帥が真剣な表情で言って来た。 アイゼンハワー大将は頷いてから返事した。 「まず、作戦の開始時期を9月にする事です。9月になれば、我が南西太平洋軍は戦力が揃い切ります。 又、この時期には現存の戦闘機を凌駕する、新鋭戦闘機や、新型の爆撃機が続々と配備されますので、これによってほぼ全戦線の支援が 可能になり、予定では9月開始から、その3ヵ月後の12月あたりまでには、敵シホールアンル軍を南大陸の入り口までに追い詰めることが出来ます。」 「海軍も同意見です。」 キングがアイゼンハワーの後に続く。 「9月までには、太平洋艦隊には空母や戦艦の他に、各種補助艦艇や後方支援部隊を送り込む事が出来ます。新造艦艇の配備は 大西洋方面の分もあるので、一気にとは行きませんが、それでも大西洋方面よりは多く回される予定です。」 キングが隣のキンメルに目配せをし、キンメルが頷いた。 「現在、太平洋艦隊には新鋭正規空母のエセックス級を中心に、4月から新造艦が配備されます。予定では、9月までには エセックス級正規空母5隻に4隻のインディペンデンス級という軽空母が艦隊に配備されます。もっと視野を広げますと、 今年中には正規空母は7隻、本国の造艦状況によっては10隻の配備も可能であり、現在建造中の巡洋戦艦は6月に竣工し、 10月には実戦配備され、新鋭戦艦もほぼ同時期に配備の予定です。先の話で、今しか攻勢の時期は無いとおっしゃられていましたが、 我が合衆国では、戦力の拡充する本年度中盤からは侵攻のチャンスはより大きく、そして確実に目標を達成できると見込んでいます。」 キンメルが言い終わった後、会議室はしばらく静まり返っていた。 会議はその後、2時間に亘って続けられた。 最初こそ、険悪な雰囲気が流れたが、アメリカ側代表の意見が言い終わった後はとんとん拍子に話は進み、最後は反攻作戦の開始時期は 9月にするという事で会議は終了した。 2月4日 午後7時 バルランド王国首都オールレイング オールレイングの北側にある一軒のきらびやかな建物の中に、ウォージ・インゲルテント大将はやや不服そうな顔を浮かべてワインを飲んでいた。 いつもの軍服は着ておらず、彼は黒い私服をつけていた。ここは、首都の郊外にある彼の自宅である。 「とにかく、反攻作戦の時期は一通り決まったそうだね、将軍。」 ソファーに座る白髪の、やや小太りな中年男性が彼に言って来た。その男は、バルランド王国の財務大臣である、ミルセ・ギゴルトである。 「一応決まりましたぞ、財務大臣閣下。しかし、敵も戦力を強化しているのなら、尚の事、反攻作戦をやらなければなりませんのに・・・・・ アメリカという国は少々贅沢に慣れ過ぎていますな。」 インゲルテントは、日々南大陸に尽くしているアメリカをそう切り捨てた。 「数を揃えば容易に攻略できる、か。その数が揃うまでの時間はどうなるのだ?シホールアンルの怖い所は、戦力が強化し始めたら、 早い時間で対抗国の装備を上回ってしまうところだ。アメリカはそれを知っているのかね?」 ギゴルトの隣に座っていた痩身の中年男、ガヘル・プラルザー内務大臣が危惧するような口調で言った。 それに、インゲルテントは首を振った。 「知らんでしょうな。それ以前に、彼らは異世界から来た“新人”です。まだまだ知らない事も多いでしょう。」 「相手を知らん事では、我々も同じでしょう?」 今度は先の2人とはやや若い声が聞こえた。インゲルテントは30代後半と思しき男性、労働商業副大臣のハバル・スカンヅラに顔を向けた。 「確かに。」 「特に信じがたいのはあの国の国力だ。彼らは召喚されて以来、常に先頭に立って戦っている。召喚されて1年以上になるが、少なくない 戦力を失ったはずだ。なのに、かの国の本土からは膨大な物資が、延々と送り届けられてくる。戦力に関してもそうだ。 ヨークタウン級、レキシントン級を上回る新鋭空母が1年で最低7隻も配備されるとは、はっきり言って信じ難い。もしかしたら、 アメリカはこの世界の魔法技術を、遥かに凌駕する魔法技術を持ち、あの物資は魔法の壷でも使って出しているのではないですか?」 「それは流石に分かりかねますな。」 インゲルテントは大げさに肩をすくめた。 「しかし、今月の中旬から、我が国や、各国から選ばれた留学生、もしくは北大陸の志願兵、総計2000人がアメリカに派遣されます。 彼らの報告を見れば、すぐに分かるでしょう。」 「来月に反抗を開始できんのは、不満だが仕方あるまい。アメリカは大事な同盟国だ。ここで機嫌を損ねては後が厄介だ。」 ギゴルトがぶっきらぼうな口調で言う。 「それはともかく、遅くなったとはいえ、反攻作戦の開始時期が決まった事は大きな一歩でしょう。それだけは喜ばしいことです。」 インゲルテントは薄い笑みを浮かべながら、3人の高官にそう言った。 「同感だな。」 「アメリカ様々ということですな。」 ギゴルトとスカンヅラは互いに言い合った。 「それにしても、ヴォイゼ陛下も頑張るものだな。」 プラルザーはそう呟いた。どこか、嘲笑するような含みがある。 「あのようなまともな国王がいたからこそ、我々は南大陸連合の中心になった。だが、真面目だけで国は維持できぬ。いずれは、玉座から降りてもらわんと。」 「いいのですか?私は国王陛下に忠を尽くす軍人です。そのような不穏当な発言は控えたほうがよろしいかと。」 「またまた冗談を。貴官があの小僧に報告なぞするまいよ。何せ、この中でヴォイゼを一番嫌っているのは君だからな。」 その言葉に、インゲルテントは大きく高笑いした。 「まあ、確かにそうですな。それ以前に、あなた方も国を引っ張る高官ではありませんか。」 「なあに、小僧の手助けをしてやってやるまでだ。いずれ、戦争が終われば・・・・・」 ギゴルトは最後まで言わなかった。 「とにかく、戦争が終わるまでには、しっかり“国王陛下”を助けてやらねばなりません。それまでは、我々は気付かれぬように 与えられた仕事をこなしましょう。それはともかく。」 インゲルテントは言葉を切り、パンと手を叩いた。 それから間も無くして、メイドが酒や料理を持って来た。テーブルに料理が並べられると、インゲルテントは持っていたグラスを掲げた。 「今日は、偉大なる一歩を祝して楽しもうではありませんか。」 1483年(1943年)2月5日 午前10時 バルランド王国ヴィルフレイング ハズバンド・キンメル大将はその日、ヴィルフレイングの南西太平洋軍司令部で、アイゼンハワーと話し合っていた。 「しかし、オールレイングでの会議はいささか疲れましたな。インゲルテント大将があんなにも攻勢論をぶち上げて来るとは、予想以上でしたな。」 「それも、なんとか丸く収まってくれました。インゲルテント大将は意外と気難しいですが、話は分かるようでしたな。 我々がしっかり説明してやったお陰で、奴さんは会議の最中は静かでした。」 「何はともあれ、お二人には非常に感謝していますよ。」 アイゼンハワーは、キンメルと、ここにはいないキングも含めて、改めて感謝した。 キングは、あの会議の後、すぐにDC-3に乗ってアメリカ本土にとんぼ帰りして行った。 作戦部長兼合衆国艦隊長官という役職は思いのほか忙しいらしく、キングは会議の終わり頃になると、次の仕事が待っているなと呟いている。 「いや、アイゼンハワー閣下もなかなかでしたよ。見事にあの将軍に捻じ込んでやりましたな。」 「あの時は一瞬、頭に血が上りかけましたよ。まあ、私は大人ですので、なんとか押さえ込むことが出来ましたが。」 そう言うと、2人は大きく笑い合った。 「それ以上に、キング提督のあの容赦の無い口振りには、私も内心ヒヤッとしましたよ。」 「キングさんは元々ああいう性格ですからね。目上の人に対しても間違っているなと思っている事はずけずけと言ってしまいますから。 確かに、あの時は私も言い過ぎだなとは思いましたが、バルランド側に思い知らせるためには、かえって良かったのかも知れません。」 キンメルは苦笑しながらそう言った。 「それにしても、今月中旬に送られる南大陸からの留学生ですが、応募人員はかなり集まったと聞きましたぞ。」 「私も正直驚きましたよ。キンメルさん、今回の応募定員は最終的に2万人になったそうです。もちろん、厳正な審査の上で選抜しました。」 「それは私も聞いています。なんでも、南大陸にはシホールアンルシンパのスパイがごろごろいるようですからな。そいつらを本土に忍び込ませたら大事ですよ。」 「審査の結果では、何人かスパイが混じっていたようですが、そいつらは全員が応募枠から叩き出されたようです。この2万人の留学生は全員がシロですよ。 しかしですね、私が驚いたのはそこではありません。2万人に対して、何人が応募したと思います?60万人ですよ。」 「60万人!?」 キンメルは思わず素っ頓狂な声を上げた。 「こいつはたまげましたな。定数の約30倍ほどの人が殺到したのですか。」 「そうです。2万人でもかなりの数ですが、60万人と言えば、それこそ1つの小国が丸々大移動するのと同じです。」 「いやはや、人気があるのも良いのか悪いのか、思わず悩んでしまいますな。」 キンメルは引きつった笑みを浮かべる。 「まあその分、アメリカという国を知りたいという人がこんなに居るという証明にもなります。我々がこの世界をファンタジーの 世界と思っているように、彼らも、我が合衆国をある意味ファンタジーの世界として見ているのでしょう。」 「なるほど。」 キンメルは納得したのか、深く頷いた。彼はコップの水を3分辺りまで減らすと、再びアイゼンハワーに聞いてみた。 「所で、義勇兵の募集はどうなりましたか?」 「思いのほか順調です。この南大陸には、北大陸から流れて来た各国の残存軍が相当数おり、その数は10万ほどに上ります。 我々は、先の北大陸の侵攻に対する備えとして、この10万の兵達に義勇兵の参加を募りました。結果として、5万ほどの北大陸兵が応募に乗りました。」 「ほう、結構な数ですな。」 「その中でもいくつか興味深いのがりまして、私としてはレスタン王国の兵に興味を抱きました。」 「レスタン王国の軍人ですか。彼らはどのような人なので?」 「正確には、軍人と民間人のごちゃ混ぜなのですが、彼らは1万人ほどがこの南大陸に流れ付きました。ここからは、私も耳を疑ったのですが、 キンメル提督はヴァンパイアはご存知ですな?」 「まあ、人並みには存知ておりますが・・・・・まさか・・・・」 キンメルは水を口に含みながら、飲むのを止めた。 「そう、そのまさかです。レスタン人はヴァンパイアの国なのですよ。」 キンメルは思わず水を噴出しそうになったが、辛うじて耐えた。 「ちょ・・・・閣下!それは本当ですか!?」 「本当も本当ですよ。現に私は見ましたからね。」 「もしかして、彼らは太陽の日を浴びたら」 「ご心配なく。」 キンメルの危惧を、アイゼンハワーにこやかな笑みで打ち消した。 「私が会ったのは太陽も真っ盛りの8月の正午。その時は晴れでしたよ。ちなみに、彼らにヴァンパイアの話を聞かせたら、とんでもないデタラメだと 一蹴されましたよ。まあ、彼らが血を好むのは確かなようで、誰にでも吸血衝動というのがあるようです。とは言っても、流石に、無闇やたらに 人の血は吸わないと言ってましたよ。そんな事するのは旧祖のよっぽどのろくでなしぐらいだそうです。」 「居ない訳ではないのですな。」 「正確には、居ない訳ではなかった、と言うほうが正しいでしょう。」 「旧祖と言いましたが、それは一体どういう事なのです?」 「元々、レスタン王国は旧祖と新祖に分かれていて、旧祖が国を統治し、指示する側で、新祖が軍を率いたり、普段の生活で経済を支える 役目だそうです。いわば貴族と平民ですな。南大陸に逃れた彼らは全てが新祖であり、残りはレスタンに取り残されたか、戦争中に死んだ ようです。実を言いますと、シホールアンルは、この小国のレスタン王国を思いのほか重要視していたようです。」 「レスタン王国は小国。しかし、シホールアンルは大国です。何故小国を重要視するのです?」 「原因は、レスタン人の習性にありますな。レスタン人は、外見はエルフに似ている以外はほぼ人間と一緒で、他に特徴があるのは、 犬歯が発達している事です。しかし、彼らは主に夜に生活の営みを得ており、特にレスタン軍は、夜間の戦闘においてはかなり強力だったようです。 このレスタンという小国は過去に2度ほど、シホールアンル本土に大規模な夜間攻撃を仕掛けて、大戦果を上げており、今度のシホールアンル皇帝は 夜の戦の名人であるレスタンに真っ先に侵攻して、大損害を出しつつも2週間で占領したようです。その際、レスタンにいた800万の人口のうち、 300万がこの侵攻作戦で失われたようです。」 「なるほど、小国といえども、その実力は侮れなかったのですな。しかし、アイゼンハワー閣下、我が軍に応募して来たレスタン人はどの方面に使われるのです?」 「彼らには、9月にノースロップ社の要人と、陸軍航空隊の幹部に会って貰いました。」 アイゼンハワーはそう言うと、執務机に戻って、引き出しから何枚かの紙を出した。 「レスタン人の中には、300名のワイバーン乗りやそれに携わった地上勤務員がいました。夜間の戦闘でかなりの功績をもたらした 者もおります。その彼らに、新しい翼を与えるのですよ。」 アイゼンハワーは、一枚の紙をキンメルに渡した。 「つい最近、ノースロップ社から渡された、新鋭機のイラストです。既に正式採用されており、P-61と名付けられます。」 「P-61ですか。」 キンメルは、まじまじとそのイラストを見た。 機体はP-38を髣髴とさせる双発双同であり、胴体はP-38よりも大きい。胴体後部上方には、旋回機銃らしきものがある。 「名称にはブラックウィドウ(黒き未亡人)と名付けられ、予定通りに進めば、本格的な夜間戦闘機に仕上がります。」 「ほほう、夜の眷族であるヴァンパイアを、夜間戦闘機に乗せるのですか。なるほど。」 「彼らがP-61に乗るまでには、様々な困難が待っていますが、彼らは新しい翼を得るためにはどんな難しい事でもやってのけると言っていましたよ。」 「戦力化されれば、実に頼もしいですな。」 「ええ。レスタン人の志願兵は、他の北大陸の志願兵と共に2月中旬に3回に分けて本土に向かいます。 ちなみに、彼らも厳正な審査を全てクリアしていますから、その点に関しては安心ですよ。」 と、アイゼンハワーは太鼓判を押した。 「さて、問題は9月までの間、シホールアンルがどうしているかですな。」 キンメルは緩んでいた表情を引き締めた。 「シホールアンルは度々、とんでもない奇策を使っていますからな。奴さんは出来る者が多い。」 キンメルの言葉に、アイゼンハワーは頷いた。 「その通りです。気が付いたら、大事な要所をあっと言う間に襲って来た、なんて事も考えられます。」 「対抗策としては、南大陸の全軍の警戒態勢をこれまで以上に強化する事でしょう。地味ながらも、大事なことです。」 キンメルはそう言ってから時計に視線を移した。時間は10時30分を回ろうとしている。 「もうこんな時間か・・・・それでは閣下。そろそろ出発の時間ですので、自分はこれで。」 「そうですか。」 2人は立ち上がると、執務室の入り口まで歩いた。 「それでは閣下。」 「またいつかお会いしましょう。」 キンメルとアイゼンハワーは互いに握手を交わし、キンメルは執務室から退出して行った。
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第138話 レンベルリカの凪 ウェルバンルの暗雲 1484年(1944年)6月2日 午後1時 レンベルリカ領タラウキント この日、フェスク・スハルクは、久しぶりに、のびのびとした気持ちで屋上から空を眺めていた。 空は雲一つ無い晴天だが、風はひんやりとしており、疲れた体にはとても気持ちよく感じられた。 「・・・・すっかり変わってしまったなぁ。」 スハルクは、何気なく屋上から下に目線を写すや、思わず呟いていた。 タラウキント市内の様相は、2ヶ月前と比べてがらりと変わっていた。 タラウキント市は、タラウキント地方の中心都市であり、同時に城塞都市でもあるが、壁の中には多数の建築物が建ち並んでいた。 ところが、度重なる激戦の結果、町の半分以上は廃墟と化している。 スハルクが今居るレンベルリカ軍総司令部・・・・元マオンド共和国レンベルリカ領南西統治本部も、建物の左半分は、敵の砲火 によって半壊状態にある。 「復興するには、莫大な資金と人手が居るんだろうなぁ。」 スハルクはつぶやきながら、半ば廃墟と化したタラウキントの町並みを見続ける。 このタラウキント市やその外で、合わせて3度の会戦が行われた。 特に苛烈を極めたのは、5月16日に行われた3度目の攻撃であり、マオンド軍は防御戦を強引に突破して市内に侵入し、 一時は町の5割近くがマオンド軍の手に落ちたが、ハイエルフ族の士官、ミリエル将軍の奇策によって敵軍は混乱に陥り、 2日後にはタラウキント市から撤退していった。 この3度の攻撃で、レンベルリカ軍は戦死者12911人、負傷者29234人を出している。 戦死者や負傷者の中には、反乱軍の主要メンバーであったランドサール将軍やミリエル将軍も含まれており、戦力はかなり低下している。 マオンド側は、反乱軍以上に損害を受けていたようだが、兵力は40万以上もいるため、反乱側と違ってまだまだ予備部隊がある。 5月18日には、マオンド側は早速斥候部隊を送り込んで、反乱側の弱体ぶりを調べ始める一方、新たに2個軍団7万名以上の軍勢を主力に、 攻勢準備を進めていた。 だが、その翌日から情勢は変わり始めた。 5月20日。マオンド側の部隊の一部が突然、後方へ移動し始めたのだ。 マオンド側が行った後方への部隊移動に、反乱軍首脳部は誰もが首を捻った。 と言うのも、彼らはアメリカ軍がスィンク沖海戦で勝利したことや、グラーズレット空襲に成功した事を全く知らなかった。 ヘルベスタン人であるスハルクは、一応無線機を持っていたが、その無線機は戦闘中の流れ弾によって破壊され、外部との連絡は 一切途絶えたままとなっていた。 マオンド軍の部隊移動は5月28日から活発になり、6月1日からは何ら動きを見せなくなった。 その間、マオンド軍の動向を後方で監視していたスパイは、およそ10万~15万以上のマオンド軍部隊が南に 向かっていったと報告を送ってきていた。 タラウキントの激戦が始まるまで、マオンド軍が用意した軍勢は40万。 戦闘でいくらかは減ったが、それでも30万以上の大軍を擁していた。 しかし、マオンド側は急な部隊移動によって、残りの兵力の3分の1、または半数に減っていた。 そのため、準備されていた攻勢は取り止められ、マオンド軍は相変わらず、タラウキント市を包囲できる位置に布陣しながら レンベルリカ軍と睨み合いを続けている。 膠着状態に陥って早1週間。タラウキントのレンベルリカ軍は敵と交戦する事なく、平穏な時間を過ごしていた。 「はは、こいつは気持ちの良い天気だ。」 ふと、後ろから野太い声が聞こえてきた。 振り返った彼は、会談から上がってきたその人物を見るなり、声を掛けた。 「これはキルゴール将軍。」 「よう。元気そうだな。」 キルゴール将軍は、その厳つい顔に屈託のない笑みを浮かべながら、スハルクに挨拶をする。 「ええ。キルゴール将軍こそ、お体の具合はどうでしょうか?」 「体の具合?この通りぴんぴんしとるよ。」 キルゴール将軍は胸を右手で小突きながら言う。彼は3日前から発熱で床に伏せっていた。 「あれぐらいはただの微熱だよ。2日も寝たらすっかり良くなったぞ。それに加え、今日は気持ちの良い天気だ。 このような晴天なら、どんな奴だって気分は良くなるだろうさ。」 彼は顔の下半分に生えている髭を撫でながら言ったあと、快活な笑い声を上げた。 キルゴール将軍は、反乱軍のドワーフ族の部隊を統べる司令官である。 タラウキント市のレンベルリカ軍は、人間種であるレンベルリカ人を始めとし、ドワーフ族、ハイエルフ族、獣人族で構成されている。 そのうち、キルゴール将軍の配下にあるドワーフ族の部隊は32000名で構成されていた。 だが、部隊は相次ぐ戦闘で消耗し、今では28000名の兵しか残っていない。 残りの4000名は戦死するか、後方の野戦病院に担ぎ込まれている。 キルゴール将軍の部隊は、将軍自身も含めて勇敢に戦い、味方の勝利に大きく貢献している。 そんなキルゴールは、傍目から見れば頑固一徹の熱血漢であるが、実際は陽気で物わかりが良い。 最初は消極論を唱えていたスハルクとそりが合わなかったが、今では顔馴染みとなっているためか、スハルクに対しても気軽に話しかけてくれる。 「それにしても、敵は一向に攻めて来ないのう。いつまでも待機の状態が続くと、体が鈍ってしまうわい。」 そんなことを言うキルゴール将軍に、スハルクは思わず苦笑する。 「それで良いではありませんか。」 「・・・・まぁ、確かに良いのだが。」 キルゴール将軍は、釈然としない口ぶりで呟く。そんな彼の視線は、マオンド軍が居ると思われる方角に向けられていた。 「マオンド軍はこの間、ワイバーンから大量の伝単(ビラ)を撒き散らした。その伝単には、マオンド本国の侵攻を目論んだ アメリカ軍が撃退されたと書いてあった。あの時、君は頼りのアメリカ軍が撃退されたと知り、愕然としていたな。」 「ええ。」 スハルクは頷いた。 去る4月23日。マオンド軍は50騎ほどのワイバーンをタラウキント市に向かわせ、大量の伝単を市内に撒いた。 ビラには、北スィンク島沖海戦でアメリカ軍の艦隊が撃退されたと書いてあり、丁寧にも炎上しながら沈んでいく アメリカ軍空母の絵も付いていた。 その2日後にマオンド側の総攻撃が始まり、一時は市内に突入されるところまで行ったが、レンベルリカ軍は何とか持ち堪えた。 マオンド側は、彼らが頼りにしていた味方が来ないという事を知らせた上で、士気の喪失を狙って宣伝作戦を行ったのだが、 後ろ盾が無くなったと思ったレンベルリカ軍は逆に士気を上げ、徹底抗戦を行うことを決めた。 マオンド側の当ては外れ、攻撃部隊は戦意旺盛なレンベルリカ軍相手に敗北した。 それからも、マオンド軍は繰り返しタラウキント市に攻撃を仕掛けた。あるときなどは、連日ワイバーンの大編隊が上空に押し寄せ、 傍若無人な攻撃を繰り返したこともあった。 また、ある時は、付近の村から集めた数百人の住人達を門前に集め、虐殺した事もあった。 籠城兵達は、マオンド側の度重なる攻撃に神経を苛まれながらも、なんとか耐えてきた。 これからも続くであろうと思われたマオンド軍の攻撃は、5月18日を境にぱたりと止んだ。 そして、いつの間にか多くの敵部隊が、南に向かっていった。 「どうして、マオンドは攻撃を止めたのだ?」 キルゴール将軍は、唸るように粒やく。彼は理解が出来なかった。 「アメリカ軍を撃退したのなら、戦力に余裕があるだろう。更なる敵部隊が増援に駆けつけても良いだろう。 なのに・・・・・攻撃を仕掛けてこないとは。」 「部隊を増やすどころか、逆に削減して別方面に転用した、という事でしょうか?」 「そうかもしれん。そして、解せん事がまだある。」 キルゴール将軍は、不快気な顔つきで言いながら、空を眺めた。 「どうして、ワイバーン共は見えなくなったのだ?もう、4日もこの空には、ワイバーンが飛んでいないぞ。」 「言われてみれば、確かに・・・・」 ワイバーンを持たぬレンベルリカ軍は、マオンド軍に制空権を握られている。 今日のような晴天では、通常でも2、3騎ほどのワイバーンが高空を悠々と飛行していたが、ここ4日ほどは そのワイバーンすらも見あたらない。 「交代のために、一時後方に下がったのですかね?」 「それにしては長すぎると思うが。」 キルゴール将軍は、唸るような声で言った後、しばし考え込んだ。 1分ほど黙考した彼は、何かに思い至ったのか、ハッとしたような表情を浮かべる。 「もしかしたら、マオンド軍は何かを警戒して、兵を後方に引き上げさせたのだろうな。」 「何か・・・・・ですか?」 「そうだ。それも、他から兵を掻き集めなければならぬほど、強大なその何かに・・・」 「君の言うとおりだよ。」 唐突に、後ろから新たな声が聞こえた。 その声は、決起軍司令官、レオトル・トルファー中将のものであった。 「マオンド軍は、このレンベルリカとは別の地域で大きな問題を抱えている。」 トルファー中将は、キルゴール将軍の側に歩み寄ると、一枚の紙を差し出した。 「これは、ヘルベスタンで頑張っている同志から送られた魔法通信だ。つい10分前に魔導士が私に伝えてきた。」 キルゴールは、訝しげな表情でその紙を読み始めたが、その表情は次第に緩くなっていく。 「キルゴール。君はこの間、マオンド軍が兵の一部を引き上げさせたのは、別の地域で異常が発生したからだと 言っていたな?この紙に書かれている内容は、その異常の詳細だ。」 キルゴールは、スハルクに顔を向けた。彼の顔には喜色が混じっていた。 「スハルク。頼れる仲間が本格的に動き始めたようだぞ。まずは読んでみろ。」 スハルクは言われるがままに、差し出された紙を受け取って内容を読んだ。 「・・・・・・・・・」 紙に書かれていた文を読み終った後、スハルクはおもむろに草原を眺めた。 草原の向こう側には、マオンド軍が陣を張っているが、それを除けばのどかな風景だ。 時折、心地の良い風がびゅうっと吹き、戦場の凪に涼しさが戻る。 「アメリカ軍の来援を諦めたのは、どうやら早計だったようですね。」 「ああ、君の言うとおりだ。」 トルファーは深く頷く。 「ヘルベスタン地方は、連日アメリカ軍の爆撃機に襲われている。たった数日の間に、アメリカ軍はのべ2000機以上の 飛空挺を投入して、反乱部隊を包囲するマオンド軍に痛打を与えているようだ。このタラウキントに、一時の平穏が訪れたのも、 マオンドがアメリカの本格的な侵攻を警戒してからのことだろうな。」 トルファーの言葉を肯定するかのように、キルゴールとスハルクは頷いた。 「我々には、まだまだチャンスが残されている。ようやく、西の援軍が来てくれた今、私達もやるべきことをやるとしよう。」 執務室から5部屋ほど前の離れた部屋を通り過ぎようとしたとき、リリスティはちらりと、開かれたドアの中を見た。 「ん?」 リリスティはそれを見るなり、ドアの前で立ち止まった。 降り続ける雨は、首都が見渡せるバルコニーを水浸しにしていた。 「最近、こんな天気が多いよなぁ。」 シホールアンル帝国皇帝、オールフェス・リリスレイは、憂鬱そうな口調で呟いた。 「最近は久しぶりに、こっから抜け出してやろうとおもったのに。こんなんじゃ、遊びに行けねえよ。」 彼が心底残念そうに呟いたその時、 「なぁにが遊びに行けないよ!」 聞き覚えのある声が後ろから響いてきた。その声を聞いたオールフェスは、一瞬、声の主が誰であるか忘れてしまった。 「え?」 オールフェスは間抜けな声を漏らしながら、慌てて後ろを振り返った。 「り、リリスティ姉?」 「そうでありますわ。皇帝陛下。」 彼の情けない問いに、リリスティは笑いながら大袈裟な口調で答えた。 「久しぶりだなぁ。でも、どうしてここに?」 「あんたの顔でも見たいなーと思って、帰り際にこっちに寄ったんだけど。あんた仕事どうしたの?」 リリスティの質問に、オールフェスは淀みなく答えた。 「さぼった。」 「さぼるな!!」 思わずリリスティは怒鳴ってしまった。 「まぁまぁ、落ち着いてよリリスティ姉。俺は最近かなり頑張ったんだよ。だから、今日から1ヶ月ぐらい仕事さぼっても 大丈夫かなぁ~と・・・・・いやすみません。今のはほんの軽い冗談です。はい。」 オールフェスは、思い思いの事を口走ろうとしたが、途中でリリスティが彼の首を軽く掴んだので止めた。 「そう。それは良かったわ。でないと、このままギュッと行っちゃうとこよ。」 「いやぁ、ははは。」 リリスティの爽やかすぎる微笑みにつられて、オールフェスも朗らかな、しかし引きつった表情で笑った。 「まったく。さっきマルバさんと会ったんだけど、オールフェスが頑張っているって自慢気に言ってたわよ。それなのに、 当の本人は仕事をさぼってるなんて。」 「なに、ただの小休止さ。別にさぼってるわけじゃないよ。最近は仕事の合間に20分ほど、ここで休んでいるんだ。」 オールフェスは苦笑しながら言った。 「リリスティ姉はいつ、首都に戻ったんだい?」 「3日前かな。海軍総司令部で開かれた会議に出席するために戻ったの。その後は久しぶりに実家へ帰ったわ。」 「久しぶりの実家はどうだった?」 「楽しかった。まぁ、妹連中は相も変わらず強かだったなぁ。」 「ああ、あいつらね。」 オールフェスは唸りながら言った。 モルクンレル家の子供は、長女であるリリスティの他に3人の女、1人の男の計5人である。 末っ子の弟は既に成人し、今は飛空挺乗りとして部隊に配備されている。 妹3人も成人して各方面で活躍している。 リリスティは、たまたま居合わせた妹連中に剣術や格闘術の試合を強要され、かれこれ4時間以上も付き合わされた。 彼女は疲労困憊しながらも、挑んでくる妹連中を打ち負かした。 「確か、帰ってくる度に勝負をしようと言うんだよな?」 「ええ。特にリラなんて、あたしが昼寝をしようとした矢先に挑戦状を叩き付けるほどだからね。」 「ていうか、元々の発端は、リリスティ姉が妹連中を手も足も出ないほど叩きのめしたからじゃねえか。いい加減負けてやれよ。」 「嫌だね。」 リリスティはフンと鼻を鳴らした。 「オールフェスも知ってるでしょう?あたしは負けることが嫌いなのよ。」 「そうだったなぁ。あいつらも戦う相手が悪かったな。」 オールフェスは苦笑しながら呟いた。 「それにしても、5月に入ってからは、こんな天気が多くなったなぁ。」 彼は、窓の外に顔を向けるや、どこかのんびりとした口調でリリスティに言った。 「そうねぇ。」 「まるで、俺の心境を現しているみたいだぜ。」 リリスティは、オールフェスの発したこの言葉が、妙に重く感じた。 (・・・・あなたも、大分苦労が溜まってるのね) リリスティは、オールフェスの寂しげな横顔を見るなり、そう思った。 アメリカ軍が北大陸の南にあたる北ウェンステルに上陸してから、早半年近くが経った。 6月1日の時点で、北ウェンステル領に配備されていたシホールアンル軍は、アメリカ軍によって北ウェンステル領の半分以上を 制圧されていた。 アメリカ軍は、主力の3個軍をもって西はルテクリッピから、東はサンムケにまで押し寄せている。 北ウェンステルに配備されている60万の味方部隊は懸命に戦っているが、装備の優れたアメリカ軍や、士気の高まった南大陸連合軍 相手に今も後退を続けている。 今から1ヶ月前の5月には、レイキ領にもアメリカ軍1個軍と南大陸軍2個軍が侵攻し、現在までに国土の半分が敵の手に落ちている。 北大陸の戦況が悪くなる中、アメリカ側は4月にホウロナ諸島を制圧し、ここに大艦隊や陸軍部隊を配備している。 3月の中旬には、ジャスオ領にもB-29の編隊が現れ、それ以降、ジャスオ領の後方基地もまた、敵の爆撃下にある。 戦況は、良くなるどころか悪くなる一方だ。 「リリスティ姉。」 オールフェスは、先とは違ったやや固い口ぶりでリリスティに聞いた。 「ホウロナ諸島には今、アメリカ軍や南大陸軍の別働隊が居る。そいつらは、日増しに戦力を蓄えつつある。リリスティ姉は、 この別働隊がジャスオか、レスタンに来ると思うかい?」 「・・・・・来るかもね。」 リリスティは答えた。 「アメリカ人は、この戦争は早く終らせようとしている。そのためには何だってやるかもしれない。あたしは陸軍の戦術には あまり悔しくないけれど、敵が来るとしたら、やっぱりジャスオかもね。」 「リリスティ姉もそう思うか。」 オールフェスはため息まじりに言った。 「敵はジャスオ領の南部地区に攻めてくるだろう。アメリカ軍は、上陸作戦にはもってこいの道具を腐るほど持っている。 そんな奴らが選ぶ上陸地点は、ホウロナからは遠いが、上陸作戦のしやすい南部地区だろう。ここは断崖の続く北部地区や、 潮の流れが変わりやすい中部地区と違って海も地形も穏やかだ。あいつらは、ここに大挙してやって来る。」 「対策の手立てはあるの?」 「あるよ。」 オールフェスは即答した。 「ウェンステル戦線から、支障を来さない程度にいくつかの軍団を引き抜き、レスタンや本国から増援部隊を送り込む。 7月までには、ジャスオ領南部だけで20万以上は集まる。敵は恐らく、この20万を超える数でホウロナから押し寄せて くるはずだが、この20万には最新装備の部隊を中心に編成する。この20万の部隊が敵を足止めしている間に、他からも 援軍を送り込ませる。敵が動けない間、俺達は北ウェンステルから兵をサッと引く。当然敵の追撃も激しいだろうが、 むざむざ敵の別働隊に退路を遮断されて、ジャスオ領南部や北ウェンステルの友軍部隊60万以上を失うよりは、遙かに 少ない損害で済むはずだ。」 「なるほどね。」 リリスティは納得したかのように頷く。 「敵の別働隊は、いつ頃になったら動き出すと思う?」 「・・・・・詳しくは分らないが、少なくとも7月末には行動を開始するだろうな。」 「それまでに、頼れる同盟国は、アメリカ軍の攻撃に耐えられるかな。」 リリスティの言葉に、オールフェスはぴくりと体を震わせた。 「マオンドか・・・・・全く、アメリカという国は、物持ちが良すぎて困るね。」 彼は、苦笑しながら言った。 「こっちの戦線には、少なめに見積もっても6、70万ほどの軍勢を派遣しているのに、レーフェイルに対しても 大軍を派遣している。レーフェイル方面は、アメリカの同盟国はほぼ皆無だから、マオンドは粘れると思う。」 「本当に粘れると思うの?」 リリスティは、オールフェスの言葉を否定するかのように言った。 「マオンドは、本国にまであの巨大爆撃機がやって来ているのよ。それに加え、マオンドにはケルフェラクのような高性能の 飛空挺は1機もない。このシホールアンルと違って、マオンドはあの爆撃機に対して、ひっかき傷を付けることすら出来ない。 そんな爆撃機に本国を蹂躙され、あまつさえレーフェイルの上陸を許したら、マオンドはもう終ったも同然よ。」 「いや、マオンドは粘るよ。」 オールフェスが振り返る。彼は笑っていたが、その目付きは恐ろしかった。 「粘ってもらわないと、困るね。」 一瞬、リリスティは背筋が凍り付いた。 「とにもかくも、マオンドは頑張るよ。あれこれ手を使ってね。そして、俺達も頑張る。だからリリスティ姉。」 オールフェスは、そのまま笑みを浮かべながらリリスティの側に歩み寄り、彼女の肩に手を置いた。 「諦めたらだめだぜ?」 「・・・・オールフェス。」 リリスティは、儚げな声音で彼の名を呼んだ。 彼女は、今、目の前に居るオールフェスに恐怖感を抱いていた。 彼は、相変わらず笑っている。その笑顔は、いつも見せる物と変わらないように見える。 だが、しかし・・・・ 「リリスティ姉。」 両肩にかかっているオールフェスの手に、力が込められていくのが分る。 「諦めたら、全てが終わりだ。それは、リリスティ姉にも分ってるだろ?」 「オールフェス・・・・」 リリスティは、再び彼の名を呼ぶが、その言葉には力がこもっていない。 (なぜ・・・・) 彼女は、オールフェスの双眸をじっと見据えながら、内心で呟いた。 (なぜ、あなたの目は・・・・) 「リリスティ姉・・・!」 オールフェスが笑みを消し、まるで縋るような口ぶりで彼女の名を呟く。 (そんなに邪な物になったの?) 彼女は、狂気の混じったオールフェスの双眸をこれ以上見つめることが出来なかった。 「ええ。確かに。」 リリスティは、視線をそらしながらも、平静な口調で言った。 「まだ、勝負は付いていないわね。オールフェスの言うとおり・・・・」 一瞬、言葉に詰まる。この先は、言ってもいいのだろうか? 彼女は、しばし躊躇った。だが、その躊躇いも打ち消して、言葉を吐いた。 「諦めちゃ行けないわ。あたし達の国シホールアンルは、常にそうして生き延びてきたから。」 「ああ、そうだな。」 オールフェスは、掠れた声で言う。 「リリスティ姉も、根っからのシホールアンル人だな。」 「当たり前でしょ。私は周りから童顔だの、ガキだのと馬鹿にされてるけど、こう見えても第4機動艦隊を統べる将よ。 戦える限りは戦うわ。それに、私は負けるのが大嫌いだからね。アメリカの機動部隊相手に負け越したままじゃ気が済まない。」 リリスティは胸を張って、堂々とした口ぶりで言った。 オールフェスは、そんなリリスティを見て、彼女が青海の戦姫と呼ばれるのも納得がいくなと思った。 「あなたが何を考えているにしろ、あたしはあたしでやっていく。」 リリスティは男勝りな笑顔を浮かべると、右手の拳をポンとオールフェスの胸に当てた。 「だから、あんたはそんな顔しないで、堂々としなさい。そんな顔じゃ、町に出ても幽霊と間違われるわよ。」 オールフェスは思わず、顔を赤らめてしまった。 「ハハハ、リリスティ姉に言われると、たまらんな。」 「そう言われないようにしなければなりませんよ?皇帝陛下。」 リリスティは、最後の部分は妙に間延びした口調で言い放った。 「さて、気になるいとこの顔も拝めたことだし、姉さんはこれで帰るとしますかね。」 「おう、さっさと帰っていいぜ。俺は早めに昼寝したいから。」 オールフェスは、爽やかな口調でリリスティに言った。 「じゃあ。」 リリスティは、それ以上に爽やかな笑みを浮かべるや、右手の拳をオールフェスの脳天に叩き込んでいた。 部屋から出たリリスティは、そのまま1階の出口に向かった。 しばらくして、彼女は心臓の辺りを抑えていた。 激しい動悸が膨らんだ胸元を上下させ、健康的な褐色な肌には、自然と汗が流れていた。 「オールフェス・・・・」 彼女は、先ほどまで会話を交わしていたいとこの名前を呟く。 あの狂気に染まった目付き。オールフェスの異常なまでの、勝利に対する執着心。 そして・・・・ 「あの時、私が気丈に振る舞っていなかったら・・・・」 リリスティは、左の腰に吊っている短剣に目をやる。一瞬だったが、短剣に何かが触れるような感触があった。 その時は、彼女が一瞬だけ、答えを躊躇っていた。 リリスティが自らの心境を打ち明けたとき、オールフェスの手は彼女の両肩に置かれていた。 (もし・・・・・あそこで別の言葉を言っていたら) 彼女はそこまで考えてから、一瞬、脳裏に思い浮かべたくもない光景がよぎる。 その瞬間、胃の辺りが痛んだ。リリスティは一瞬歩調を緩め、顔をややしかめながら腹の辺りを抑える。 「・・・・はぁ。まさかね。」 リリスティは笑いながら、そんな馬鹿げた光景を頭から消し去った。 「オールフェスに限って、そんな事は無いわね。」 彼女は呟いてから、深くため息を吐いた。 「あたしも疲れてるんだなぁ。まぁ、今のご時世じゃ仕方のない事ね。」 リリスティはぼやきながら、3日前に行われた海軍総司令部での会議を思い出す。 会議の議題は、現在計画中の作戦についての物であったが、話の最後には、レーフェイル方面の話題も持ち上がった。 話によると、アメリカ海軍は4月のスィンク沖海戦で少なくとも空母3隻を撃沈され、5隻を大破させられたが、5月中旬には 戦力を盛り返して、再び活動を活発化させているという。 アメリカ軍の高速機動部隊は、5月末の時点で推定ながらも7隻、あるいは8隻の空母を中心にレーフェイル方面で活動しているという。 4月には壊滅的な打撃を喫した敵機動部隊が、僅か1ヶ月ほどで再生したと言う事に海軍上層部は驚きを隠せなかった。 リリスティは、この話題に関して、次のように発言している。 「マオンド海軍は、発表された戦果ほどは敵に打撃を与えていないと思われます。しかし、話半分としても空母1隻撃沈、 2、3隻を大破させたことはほぼ確実です。ですが、敵は再び、7、8隻の高速空母を揃えて前線に出てきた。この事からして、 アメリカ側は本国に補充用の空母を用意していたと推測されます。」 彼女の言葉に、シホールアンル海軍の将官達は、最初は難色を示していたが、次第に納得した。 現在のアメリカ海軍が、常に空母8隻以上の機動部隊でもって行動するのは、アメリカ海軍のみならず、シホールアンル海軍にも 常識として知られている。 シホールアンル側が確認した、太平洋艦隊所属の空母は16~18隻。 そして、マオンド側が確認した空母は、6月の時点で7、8隻。 これを合計すれば、敵は24隻ないし、26隻の高速空母を保有することになる。 それに加え、後方任務用の小型空母も別に20~30隻以上確認されている。 これに対し、シホールアンル海軍が保有する竜母は、現状で12隻。 今年の10月には、ホロウレイグ級の5番艦と、プルパグント級の1番艦、小型竜母の7、8番艦が前線に登場するため、 竜母部隊は16隻編成になる。 シホールアンル側は、真正面から戦ってもある程度勝算が見込める。 だが、マオンド側の竜母部隊は、僅か5隻のみ。 これでは強大な大西洋艦隊と真正面から戦えるはずもなく、マオンド機動部隊はシホールアンル側よりも慎重に行動せねばならないだろう。 これは、高速機動部隊同士で戦えば、の話である。 敵が小型空母も総動員して来ると、数の少ないマオンド機動部隊は数の暴力によって一飲みにされるだろうし、それよりマシな編成の シホールアンル側ですら、勝算の見込みは全くないだろう。 海軍だけでこの有様なのに、陸軍の場合はもっと酷いと聞いている。 「こんな有様じゃ、オールフェスがああなるのも、致し方無いのかな。」 リリスティはそう呟くと、再び歩き始めた。 最初は驚き、ふとすれば卒倒したい気分に駆られるが、リリスティにとって、このような数字合わせはもはや慣れた物であった。 その日も、帝都はずっと雨だった。しつこく覆い被さる灰色の雨雲は、いつまでも雨を降らし続けていた。 まるで、皇帝オールフェスの心境を代弁しているかのように。
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916 名前:reden 投稿日:2006/12/29(金) 23 03 41 [ b6zK/Sj2 ] 投下終了です。 ……自分でも無茶なもの書いてるな~と思いますが、どうか大目に見てやってください(汗) 知識などで至らないところも多々あると思いますが、おかしいと思う点があったらどんどんご指摘願います! それでわ。 917 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/29(金) 23 45 16 [ Hk0pjdRA ] ソ連の大地を召喚とかすげースケールでかいな 918 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/29(金) 23 54 38 [ zQTyC6vk ] reden様 間違っていたらすいません もしかして堕ちた天使の世界で投稿されている方でしょうか? 921 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 00 32 18 [ nu1wmIz. ] 赤い羆がF世界に解き放たれるのか?((((;゚Д゚)))ガクブル 922 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 00 36 39 [ BSPacu0Q ] カラフトはどうなるよ? 923 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 01 02 42 [ Nr85GkIo ] 召喚陣には我が国で最も強力な従属魔術が付与されておる。 たぶん意味無いとおもわれw 異世界にも共産主義の幻想がww 924 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 05 32 12 [ jgfSg0sY ] やっべ超面白そう!>ソビエト連邦召喚 召喚された大地そのものを目的とするケースは初めてですね。 これによりF世界側はソビエトに侵攻せざるを得なくなるわけで F世界のショボい軍隊でT-34やらJS-3やら冬将軍と戦わなければならなくなる、 これはF世界側の視点で書いたら絶望的な撤退戦を描けそうでもあります。 平成日本召喚に虚無の砲弾に第三帝国召喚に続きソビエト連邦か、 このスレやたらクオリティ高い作品が揃ってるなぁ。 928 名前:名無し三等兵@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 11 08 41 [ DUErFeR2 ] 月影さん、投下乙です。 レーダー総司令官、お疲れ気味ですね。まあ、1隻も沈まなかっただけ御の字です。 redenさん、投下乙です。 初めて見るソ連召還、今後の展開を楽しみにしています。 陸士長さん、投下乙です。 少尉、かなり精神が参ってますね。 残り15発ですか…。大物以外は銃で倒すか、キャタピラで轢くしかないかなあ。 930 名前:長崎県人 投稿日:2006/12/30(土) 13 13 58 [ CDVnjlgM ] 月影さん投下乙! しかし駆逐艦に20~50・・・パンツァーファウストぐらい?艦より戦車に使われたらエライ事になりそうな・・・ redenさん 投下乙です!紅い世界が遂にF世界に・・・!ファンファン大佐の活躍に期待です・・・! 陸士長さん 投下乙です・・・15発、燃料も考えると・・・猫の亡霊でも取り付かせt(ry 931 名前:reden 投稿日:2006/12/31(日) 00 28 55 [ b6zK/Sj2 ] 陸士長さん投下乙です。 >917さん、928さん。 感想ありがとうございます。既にアメリカとドイツ、日本が出揃い、後召喚して面白い国はないかと考えた結果この国に行き着きました。 まあネタとしてはフランスなんかも有りですけど(汗) >918さん。 え~と、そちらでは二次創作を中心に… >921さん。 F世界国家にとっては災難。ソ連が消えた地球では主にドイツが喜ぶでしょう。東方生存圏が(ry >922さん。 基本的に転移したのは大陸の国土のみです。 よって樺太や(小さいけど)コトリン島などは元の世界に取り残されてます。 932 名前:reden 投稿日:2006/12/31(日) 00 29 38 [ b6zK/Sj2 ] >923さん。 間違いなく、あらゆるF世界国家からハブられるでしょうね。 王様はNG。宗教もNGですから。 >924さん。 >>F世界側はソビエトに侵攻せざるを得なくなる ですね。しかし史実のおドイツ様のような奮戦は流石に無理でしょう。 北の熊をそこまで追い込もうと思ったら、それこそラノベ級の魔術師を大量に出したり一発逆転のトンデモ魔法とかが無いと……(汗) >長崎県人さん 木造船主体のファンタジー世界においては『あの』ロシア海軍も世界の先端を行く大海軍扱いでしょう。 ……激しく分不相応な気がしますが。
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916 名前:reden 投稿日:2006/12/29(金) 23 03 41 [ b6zK/Sj2 ] 投下終了です。 ……自分でも無茶なもの書いてるな~と思いますが、どうか大目に見てやってください(汗) 知識などで至らないところも多々あると思いますが、おかしいと思う点があったらどんどんご指摘願います! それでわ。 917 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/29(金) 23 45 16 [ Hk0pjdRA ] ソ連の大地を召喚とかすげースケールでかいな 918 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/29(金) 23 54 38 [ zQTyC6vk ] reden様 間違っていたらすいません もしかして堕ちた天使の世界で投稿されている方でしょうか? 921 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 00 32 18 [ nu1wmIz. ] 赤い羆がF世界に解き放たれるのか?((((;゚Д゚)))ガクブル 922 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 00 36 39 [ BSPacu0Q ] カラフトはどうなるよ? 923 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 01 02 42 [ Nr85GkIo ] 召喚陣には我が国で最も強力な従属魔術が付与されておる。 たぶん意味無いとおもわれw 異世界にも共産主義の幻想がww 924 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 05 32 12 [ jgfSg0sY ] やっべ超面白そう!>ソビエト連邦召喚 召喚された大地そのものを目的とするケースは初めてですね。 これによりF世界側はソビエトに侵攻せざるを得なくなるわけで F世界のショボい軍隊でT-34やらJS-3やら冬将軍と戦わなければならなくなる、 これはF世界側の視点で書いたら絶望的な撤退戦を描けそうでもあります。 平成日本召喚に虚無の砲弾に第三帝国召喚に続きソビエト連邦か、 このスレやたらクオリティ高い作品が揃ってるなぁ。 928 名前:名無し三等兵@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 11 08 41 [ DUErFeR2 ] 月影さん、投下乙です。 レーダー総司令官、お疲れ気味ですね。まあ、1隻も沈まなかっただけ御の字です。 redenさん、投下乙です。 初めて見るソ連召還、今後の展開を楽しみにしています。 陸士長さん、投下乙です。 少尉、かなり精神が参ってますね。 残り15発ですか…。大物以外は銃で倒すか、キャタピラで轢くしかないかなあ。 930 名前:長崎県人 投稿日:2006/12/30(土) 13 13 58 [ CDVnjlgM ] 月影さん投下乙! しかし駆逐艦に20~50・・・パンツァーファウストぐらい?艦より戦車に使われたらエライ事になりそうな・・・ redenさん 投下乙です!紅い世界が遂にF世界に・・・!ファンファン大佐の活躍に期待です・・・! 陸士長さん 投下乙です・・・15発、燃料も考えると・・・猫の亡霊でも取り付かせt(ry 931 名前:reden 投稿日:2006/12/31(日) 00 28 55 [ b6zK/Sj2 ] 陸士長さん投下乙です。 >917さん、928さん。 感想ありがとうございます。既にアメリカとドイツ、日本が出揃い、後召喚して面白い国はないかと考えた結果この国に行き着きました。 まあネタとしてはフランスなんかも有りですけど(汗) >918さん。 え~と、そちらでは二次創作を中心に… >921さん。 F世界国家にとっては災難。ソ連が消えた地球では主にドイツが喜ぶでしょう。東方生存圏が(ry >922さん。 基本的に転移したのは大陸の国土のみです。 よって樺太や(小さいけど)コトリン島などは元の世界に取り残されてます。 932 名前:reden 投稿日:2006/12/31(日) 00 29 38 [ b6zK/Sj2 ] >923さん。 間違いなく、あらゆるF世界国家からハブられるでしょうね。 王様はNG。宗教もNGですから。 >924さん。 >>F世界側はソビエトに侵攻せざるを得なくなる ですね。しかし史実のおドイツ様のような奮戦は流石に無理でしょう。 北の熊をそこまで追い込もうと思ったら、それこそラノベ級の魔術師を大量に出したり一発逆転のトンデモ魔法とかが無いと……(汗) >長崎県人さん 木造船主体のファンタジー世界においては『あの』ロシア海軍も世界の先端を行く大海軍扱いでしょう。 ……激しく分不相応な気がしますが。
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916 名前:reden 投稿日:2006/12/29(金) 23 03 41 [ b6zK/Sj2 ] 投下終了です。 ……自分でも無茶なもの書いてるな~と思いますが、どうか大目に見てやってください(汗) 知識などで至らないところも多々あると思いますが、おかしいと思う点があったらどんどんご指摘願います! それでわ。 917 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/29(金) 23 45 16 [ Hk0pjdRA ] ソ連の大地を召喚とかすげースケールでかいな 918 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/29(金) 23 54 38 [ zQTyC6vk ] reden様 間違っていたらすいません もしかして堕ちた天使の世界で投稿されている方でしょうか? 921 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 00 32 18 [ nu1wmIz. ] 赤い羆がF世界に解き放たれるのか?((((;゚Д゚)))ガクブル 922 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 00 36 39 [ BSPacu0Q ] カラフトはどうなるよ? 923 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 01 02 42 [ Nr85GkIo ] 召喚陣には我が国で最も強力な従属魔術が付与されておる。 たぶん意味無いとおもわれw 異世界にも共産主義の幻想がww 924 名前:名無し三等陸士@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 05 32 12 [ jgfSg0sY ] やっべ超面白そう!>ソビエト連邦召喚 召喚された大地そのものを目的とするケースは初めてですね。 これによりF世界側はソビエトに侵攻せざるを得なくなるわけで F世界のショボい軍隊でT-34やらJS-3やら冬将軍と戦わなければならなくなる、 これはF世界側の視点で書いたら絶望的な撤退戦を描けそうでもあります。 平成日本召喚に虚無の砲弾に第三帝国召喚に続きソビエト連邦か、 このスレやたらクオリティ高い作品が揃ってるなぁ。 928 名前:名無し三等兵@F世界 投稿日:2006/12/30(土) 11 08 41 [ DUErFeR2 ] 月影さん、投下乙です。 レーダー総司令官、お疲れ気味ですね。まあ、1隻も沈まなかっただけ御の字です。 redenさん、投下乙です。 初めて見るソ連召還、今後の展開を楽しみにしています。 陸士長さん、投下乙です。 少尉、かなり精神が参ってますね。 残り15発ですか…。大物以外は銃で倒すか、キャタピラで轢くしかないかなあ。 930 名前:長崎県人 投稿日:2006/12/30(土) 13 13 58 [ CDVnjlgM ] 月影さん投下乙! しかし駆逐艦に20~50・・・パンツァーファウストぐらい?艦より戦車に使われたらエライ事になりそうな・・・ redenさん 投下乙です!紅い世界が遂にF世界に・・・!ファンファン大佐の活躍に期待です・・・! 陸士長さん 投下乙です・・・15発、燃料も考えると・・・猫の亡霊でも取り付かせt(ry 931 名前:reden 投稿日:2006/12/31(日) 00 28 55 [ b6zK/Sj2 ] 陸士長さん投下乙です。 >917さん、928さん。 感想ありがとうございます。既にアメリカとドイツ、日本が出揃い、後召喚して面白い国はないかと考えた結果この国に行き着きました。 まあネタとしてはフランスなんかも有りですけど(汗) >918さん。 え~と、そちらでは二次創作を中心に… >921さん。 F世界国家にとっては災難。ソ連が消えた地球では主にドイツが喜ぶでしょう。東方生存圏が(ry >922さん。 基本的に転移したのは大陸の国土のみです。 よって樺太や(小さいけど)コトリン島などは元の世界に取り残されてます。 932 名前:reden 投稿日:2006/12/31(日) 00 29 38 [ b6zK/Sj2 ] >923さん。 間違いなく、あらゆるF世界国家からハブられるでしょうね。 王様はNG。宗教もNGですから。 >924さん。 >>F世界側はソビエトに侵攻せざるを得なくなる ですね。しかし史実のおドイツ様のような奮戦は流石に無理でしょう。 北の熊をそこまで追い込もうと思ったら、それこそラノベ級の魔術師を大量に出したり一発逆転のトンデモ魔法とかが無いと……(汗) >長崎県人さん 木造船主体のファンタジー世界においては『あの』ロシア海軍も世界の先端を行く大海軍扱いでしょう。 ……激しく分不相応な気がしますが。
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第142話 モンメロ上陸作戦 1484年(1944年)6月16日 午前6時 ヘルベスタン領モンメロ この日、ヘルベスタン領エルケンラードから、東に40ゼルド(120キロ)の所にあるモンメロでは、マオンド軍 第215歩兵旅団に属する歩兵連隊がいつもの朝の日課を始めようとしていた。 「ふぁ~、眠いなぁ。」 第2歩兵連隊第2大隊第3中隊に属しているヘルト・ドールントゥ中尉は、珍しく霧がふけるモンメロの森を見つめながら 眠たそうな口調で言った。 第2大隊が所属する第215歩兵旅団は、マオンド軍ヘルベスタン統治軍の後方予備として配置されており、つい2ヶ月前までは 前線部隊に配備されていた。 このモンメロ地区に移ってからは、モンメロの森や、周辺の町の監視や訓練を行っている。 彼らは今、海岸付近に配備されている第3中隊と交代するために、沿岸から1ゼルド離れた内陸から森に向けて向かっている途中である。 6月というのに、森の中はひんやりとしており、霧に半ば隠されたモンメロの森林地帯は、そこだけがこの世ではない異界のように見える。 「そういえば中隊長。」 ドールントゥ中尉は、軽鎧に覆われている腹が無性に痒いと感じたときに、後ろから軍曹に声を掛けられた。 「昨日は、トハスタがアメリカ軍の機動部隊によって手酷い損害を受けたようですが、今後は輸送船の往来はほぼ無い状況が続くんでしょうか?」 「ああ、その事か。」 ドールントゥ中尉は、顔をしかめてそう言った。 「港に停泊していた輸送船が片っ端からやられたというから、海路からの補給は、今後しばらくは難しいかもな。」 トハスタが敵機動部隊の空襲を受けているという報せが伝わったのは、1日の課業もそろそろ終えようとしていた夕方の時であった。 トハスタに駐留していた味方部隊は、夜も明けて間もない午前5時。突如としてアメリカ軍機の空襲を受けた。 最初の第一波攻撃隊が押し寄せたのは午前5時30分頃。 その時は、マオンド側も急いで迎撃ワイバーンを発進させたが、発進命令が下ったのは警報が発せられて僅か10分後であり、 まともに迎撃できたのは、僅か60騎ほどであった。 この60騎のワイバーンは勇敢に戦ったが、150機にも上るコルセアやヘルキャットが相手では、逃げるだけで精一杯だった。 迎撃ワイバーン隊が拘束できたアメリカ軍機はせいぜい6、70機ほどで、残りはワイバーン基地目掛けて突進していった。 警報発令が遅れた代償は余りにも大きかった。 アメリカ軍機は3手に別れて3つあるワイバーン基地に襲い掛った。 この時は、今しも発進しようとしていたワイバーンや、米機動部隊攻撃用に内陸部から移動し、明日にはヘルベスタンに飛び立とうと していた多数のワイバーンで基地内はごった返していた。 そこにコルセア群やヘルキャット群は暴れ込んだ。 ヘルキャットは、飛び立ったばかりのワイバーンに対して情け容赦なしに機銃を撃ちかけ、バタバタと叩き落としていく。 ワイバーンに跨った竜騎士は、その瞬間に12.7ミリ弾の掃射を受けて、魔法防御を張る暇すら与えられずにワイバーン共々、鮮血を 吹いて戦死する。 一部のコルセアは、両翼に吊り下げていた4発の5インチロケット弾を叩き込み、複数のワイバーンが纏めて爆砕される。 2年近く前のエルケンラードで起きた悪夢が、所を変えて現出されていた。 コルセアやヘルキャットが散々暴れ回った後は、3つあるワイバーン基地は、ワイバーンや竜騎士の巨大な墓場となっていた。 第1波の戦闘機隊が派手に暴れ回った後、午前6時10分頃に、第2次攻撃隊が姿を現した。 マオンド側は、迎撃隊や、戦闘機隊の襲撃で生き残ったワイバーンを掻き集め、約80騎で迎え撃ったが、米側も攻撃隊に90機の戦闘機を 随伴させていたため、攻撃機に向かえるワイバーンは少なかった。 第2次攻撃隊は、TG72.1とTG72.2から発艦した90機の戦闘機、52機の艦爆、48機の艦攻で編成されていた。 艦攻、艦爆のうち、艦爆隊はワイバーン基地の攻撃に向かい、艦攻隊は停泊している艦船を攻撃した。 停泊していた輸送船の中で、4隻は、ようやく外海をでたばかりで、攻撃隊を見つけるや慌てて南に進路を取ったが、イラストリアスの艦攻隊 16機がこの4隻に向かった。 敵船は4隻とも被雷し、うち2隻はその場で轟沈し、1隻は1時間後に沈没。 残る1隻はなんとか航行できたが、船長は長くは保たないと判断し、3ゼルド離れた海岸に乗り上げ、乗員の命を救った。 その後、トハスタは午後6時までに、7波延べ800機以上の艦載機から猛攻を受け、3つの主要なワイバーン基地は全て壊滅し、 270騎のワイバーンを失った。 港に停泊していた25隻の輸送船と15隻の哨戒艇、砲艦、旧式駆逐艦は片っ端から叩き沈められ、港湾施設はほぼ壊滅した。 これに対して、マオンド側の戦果は敵戦闘機69機、攻撃機60機撃墜のみであった。 (実際に現地で撃墜されたのは、F6F19機、F4U9機、SBD1機、SB2C7機、TBF12機である) マオンド側にとって救いだったのは、停泊していた主力艦隊が既に出港した後であった事である。 しかし、それでも被害は甚大であった。この空襲で、ヘルベスタン領を往復していた輸送船団は、軒並み撃沈された。 船団の壊滅によって、ヘルベスタン領に対する海路からの補給路は完全に途絶えてしまった。 ヘルベスタン領には、陸路と海路から補給が行われているが、海路が寸断されたとなると、マオンド軍各部隊の補給は、これまで以上に 困難になると思われている。 陸路でさえ、秘匿していたはずの交通路や物資集積所が次々と爆撃を受けているのだ。 この状況で海路まで絶たれたとなると、マオンド側の困窮は一層深まるばかりである。 今の所、後方部隊である第215歩兵旅団は、補給物資に関しては概ね問題ないが、いずれは前線部隊で目立ち始めた 各種物資の不足が始まるのでは?という思いは、旅団中の将兵が内心で抱いていた。 午前6時10分には、第2中隊は森を抜けて、待機していた部隊と交代した。 それからしばらく経った。 ドールントゥ中尉は、木造の半地下式の指揮所で机に脚を乗せながら暇潰しに読書をしていた。 「中隊長、霧が晴れ始めましたよ。」 監視窓から、霧に覆われた海岸線を見つめていた兵が、何気ない口調で報告してくる。 「霧が晴れても、いい物は見られないさ。」 彼は視線を本に向けたまま兵に答える。 「ここの任務について2ヶ月になるが、肝心の潜水艦とやらはいないし、スパイも居ない。今日も何も無いまま終わるさ。」 「それにしても、アメリカ軍の大船団は、やはり西海岸方面に向かっているんですかね。」 兵士のその言葉に、ドールントゥ中尉はページをめくるのをやめた。 「確実に、西海岸に上陸するだろうな。恐らく、反乱側が確保している沿岸部に上陸するだろう。」 アメリカ軍の大船団が、スィンク諸島を離れたという情報は、既に全部隊に伝えられている。 情報の発信元は海軍側からだが、その報告は、ヘルベスタン領にいるマオンド軍部隊に衝撃を与えた。 マオンド軍は、これを受けて急遽、反乱側の殲滅作戦を行うことを決め、今日の朝頃には山岳地帯や沿岸部を支配している 反乱軍に一斉攻撃を仕掛けるようだ。 マオンド側はアメリカ軍が上陸するまでに反乱側を殲滅して鎮圧し、上陸地点を抑える積もりのようだが、現状では とても間に合いそうにない。 そう遠からぬうちに、アメリカ軍は西部沿岸のどこかに、大軍を上陸させてくるであろう。 「アメリカ軍が上陸したら、我が軍の戦線は後退するだろうな。」 ドールントゥ中尉は、あっさりとした口調でそう言った。 それを聞いた監視兵が、彼の言葉に対して反論しようとした時、彼は傍にいたもう1人の監視兵から肩を叩かれた。 「おい、ちょっと見てみろ。」 監視兵はそう言うなり、望遠鏡を彼に手渡した。 「どうしたんだ?」 「少し遠くの沖合で何かの影が見える。船かも知れない。」 監視兵は同僚の声を聞きながら、望遠鏡の向こう側に意識を集中する。霧は急速に晴れつつある。 10分前までは、白い空気の層しか見えなかったのに、今ではやや遠くの洋上まで見渡せそうだ。 彼は5分ほど探したが、船らしき影は見つけることが出来なかった。 「何も無いぞ?」 「・・・・無いのか?」 「ああ。もう1度見てみろ。」 監視兵は、同僚に望遠鏡を手渡す。同僚はそれを取ると、再び自分の目で確認した。 この同僚は、隊の中では最も視力がよい。 マオンド中部にある山岳地帯で生まれたこの同僚は、子供の頃から親と共に猟に出たり、暇なときは自らも狩猟を嗜んでいたため、 自然と視力が鍛えられていった。 その彼は、海岸勤務になると、よく監視役を任されている。 「う~ん、おかしいな。確かに船だと思ったんだが。」 「見間違いじゃねえのか?霧はまだ晴れてないし。」 霧の濃さは薄くなっているとは言え、海岸線から少し離れた沖までしかはっきり見られるのだが、そこから先はまだ霧が掛かっていて、 目を凝らしてもその先に何があるのかはっきり分からない。 「俺の見間違いだったかな。」 「かもな。」 監視兵は、同僚に苦笑しながら言った。 それから10分ほどが経った。霧が晴れてきたせいか、海は先ほどと違って、水平線まで見渡せるようになっていた。 先ほど、同僚から声を掛けられた監視兵は、ドールントゥ中尉と雑談を交わしていた。 「なるほどな!ヘルベスタン人にも、なかなか面白い奴がいるのだな!」 「ええ。まったく骨のある奴ですよ。オーク兵やゴブリン兵を見ても動じませんからね。たかが行商人とはいえ、ヘルベスタンにも まだまだ捨てがたい奴が居ますよ。」 監視兵が調子の良い口調でそう言った直後、後ろでカランと、何かが落ちる音が聞こえた。 彼はどうしたのかな?と、軽い気持ちで振り返った。目の前には、何故か棒立ちになったまま前を見据える同僚の姿があった。 同僚は、くるりと彼に姿勢を向ける。その動作が、妙にぎこちない。 「どうした?」 「・・・・・・・・・・」 彼の問いかけに応じることなく、同僚は落ちた望遠鏡を拾うと、彼に差し出した。 「み・・み・・・み・・・・」 その無表情な顔つきとは裏腹に、震えた口調で言葉を紡ごうとするが、なかなか思い通りに言えない。 「はぁ?」 彼は怪訝な表情を浮かべるが、同僚がこれで海を見ろと伝えようとしているのが分かった。 首を捻りながらも、彼は望遠鏡を手に取って、それで海を見た。 彼の目に飛び込んできたのは、水平線上に浮かぶ無数の黒い影であった。 「・・・・・・・!?」 言葉にならない驚きが発せられる。 彼はそのまま、水平線上の影の群れを見つめ続けた。 「まさ・・・・か・・・・・」 監視兵は、掠れた声音で呟いた。彼の脳裏に、信じたくない結論が浮かび上がっていた。 自然に、体が震え始めた。 「おい・・・・何か見つけたのか?」 後ろから、中隊長の声が聞こえる。監視兵は思わず、静かにして下さい!と叫びそうになった。 彼は何故か、声を敵に聞かれてしまうと思っていた。余りの恐怖に、あり得ない事を普通にあり得てしまうと思ってしまったのだ。 (何も言うな!声を聞かれたら、あの海の向こうの化け物達に聞かれてしまう!!) 監視兵は、心の中でそう叫んだ。 彼の考えは全くの間違いである。少なくとも3マイル以上は離れているあの影の群れに、彼らの会話は聞こえるはずもなかった。 しかし、影の群れは、彼らの言葉を聞き取ったのか、一斉に閃光を発した。 「おい!聞いているのか!?」 ドールントゥ中尉は、怒りをあらわにした口調で監視兵に言ったが、その監視兵からは予想外の言葉が言い放たれた。 「アメリカ軍です!沖合にアメリカの大艦隊が現れました!!」 監視兵は振り返るやいなや、血走った目を見開きながら、絶叫じみた口調でドールントゥ中尉に言った。 「な・・・・何だとぉ?」 突然言い放たれた言葉に、彼は唖然と鳴った。 そこに、何かが空気を切り裂くような音が聞こえてきた。 不気味な音は、とてつもなく大きかった。ドールントゥ中尉は、あまりのやかましさに耳を塞ごうとした。 その瞬間、大音響が鳴り響き、彼は強い衝撃受けながら、唐突に意識が無くなった。 彼は知らなかったが、戦艦テキサスから放たれた14インチ砲弾は、1発が彼らが居た指揮所に命中して、いとも簡単に吹き飛ばしていた。 午前7時30分 モンメロ沖4マイル地点 アルトルート・ソルトは、輸送船コズウェル号の甲板上で、猛烈な艦砲射撃を受けているモンメロの海岸に見入っていた。 前方の戦艦が、砲身から火を噴く。斉射に伴う猛烈な轟音が、離れた位置にいるコズウェル号にまで響き渡る。 20分前から始まった艦砲射撃は、早くも佳境に入りつつある。 TF73に所属している戦艦ニューメキシコ、ミシシッピー、アイダホは、第8艦隊から編入された戦艦ニューヨーク、テキサス、他の護衛艦と 共に上陸地点の事前砲撃を行っている。 旧式戦艦とはいえ、5隻の戦艦が行う砲撃は圧倒的な物があり、射撃から僅か10分足らずで、上陸地点は爆煙に覆われて見えなくなってしまった。 「どうです?初めて見る艦砲射撃は。」 彼の傍らで、同じく爆煙に包まれるモンメロを見つめていたダグラス・マッカーサー大将がアルトルートに聞いてきた。 「圧倒的ですね。あれなら、いかなる障害も吹き飛ばすことが出来るでしょう。」 「事前砲撃は、上陸作戦では欠かせぬ物ですからな。この砲撃とは別に、航空部隊の空襲もう行われます。ああやって、 敵の抵抗力を徹底的に削いでいけば、味方部隊が上陸するときに損害を抑えることができます。」 マッカーサーは単調な口調で言う。 「欠点としては、この事前攻撃を行うために大量の砲弾や爆弾を用意しなければならないことです。上陸作戦を行うときには、 これらの準備が出来ているかを確認してから、ようやく上陸作戦が始まります。」 「なるほど。」 アルトルートは冷静な表情で言ったが、内心ではアメリカという国の凄さを改めて思い知らされたような気がした。 砲撃は、50分に渡って続けられた。その間、戦艦部隊や駆逐艦部隊は、砲弾を好き放題撃ちまくっていた。 とある駆逐艦は、敵の反撃が無いのをいい事に、1キロほどの沖まで近付いて40ミリ機銃を乱射した。 ボフォース40ミリ機銃の太い曳航弾は、爆煙で見えづらくなった沿岸や森林地帯に延々と注がれ続けた。 艦砲射撃に加わったのは、何も戦闘艦艇のみではない。 上陸部隊には、戦艦や駆逐艦の他に、LSTを改造したロケット弾発射艦・・・・いわゆるロケット砲艦を20隻伴っていた。 これらのロケット砲艦は、沖合から2キロまで近付くや、無数のロケット弾を発射した。 これによって、沿岸部の様相はより悲惨な物になっていった。 激しい艦砲射撃が急に鳴り止んだと思ったときには、事前攻撃の主役は海から空へと移っていた。 後方に展開していた第72任務部隊から発艦した160機の艦載機が、砲撃が終わった直後に姿を現した。 アルトルートは、轟音を上げながら上空を通過していく艦載機の大挺団を見て、自然に胸が高鳴っていた。 艦載機群は、事前砲撃で散々耕された上陸地点に爆弾やロケット弾を注ぎ込み始めた。 その一方で、攻撃機の半数は、モンメロの村の近郊にあるマオンド軍の駐屯地を叩いた。 この時になって、マオンド側のワイバーン隊が30騎ほどやって来たが、数で勝るF6FやF4Uに襲われ、最後は大きく数を 減らしながら撃退された。 空襲は15分ほどで終わりを告げた。 午前8時30分、アメリカ軍部隊は、ついに本格的な動きを見せ始めた。 マッカーサーの指揮船コズウェル号の前方や後方を、兵員を乗せた上陸用舟艇が多数通り抜けていく。その少し離れたところからは、 装甲車両を乗せたLSTが、上陸用舟艇の後を追うように海岸に向かっていく。 その上空を、第2次攻撃隊の艦載機が通り過ぎていく。一部の機は、下界の上陸部隊に向けてバンクをするものもある。 モンメロ沖は、今や5、600隻は下らぬアメリカ側の大船団で埋め尽くされていた。 上空から見れば、その圧倒的な光景に思わず目を奪われるであろう。 「殿下、いよいよ始まりますぞ。」 マッカーサーがアルトルートに語りかけてきた。 「あなたが望んでいた祖国解放は、もはや秒読み段階になりつつあります。ここが最後の頑張り所です。」 マッカーサーはそう言った後、口元に笑みを浮かべた。 「それから、上陸後はあなたの言葉を、ヘルベスタンの民に伝えて貰います。」 「分かっていますよ。」 アルトルートは、マッカーサーが言わんとしている事を理解していた。 アメリカ軍は、昨日の深夜に奇想天外な作戦を実行に移していた。 マッカーサーは、第10、第8航空軍に所属している輸送機をレーフェイル大陸方面に向けて発進させ、反乱側に救援物資を投下すると同時に、 ヘルベスタン領西部の各地にとある物を落下傘で降下させていた。 マッカーサーがこの作戦を思いついた当初、幕僚達からは反対の声が上がったが、彼は強引にこの作戦を実行に移した。 モンメロ上陸作戦と比べれば、一見備品の壮大な無駄遣いになるであろうが、成功すれば、レーフェイルの民達を味方に付けることが出来る。 マッカーサーとアルトルートは、それ以上何も言うこと無く、上陸作戦の推移を見守り続けた。 無数の上陸用舟艇が、モンメロの海岸目掛けて突進を続けている。 その後方からは、LSTと呼ばれるやや大型の船や、各種船舶が続いている。 上陸部隊は、第一波だけで2個師団が海岸に取り付く。 2個師団を上陸させるには、アルトルートがこれまで想像していた限りではかなりの手間を擁する。 だが、アメリカ軍は、アルトルートの常識を遙かに上回る方法で、2個師団の兵員を上陸させようとしている。 上陸用舟艇、戦車揚陸艦・・・・・そして各種支援艦艇の数々。 マオンドはおろか、シホールアンルですらも、このようなやり方で部隊を上陸させる事は出来ないだろう。 (これが・・・・アメリカの・・・・いや、新しい戦争のやり方なのか) アルトルートは、胸中でそう思った。 最初の上陸第一波は、第14軍所属の第30軍団指揮下の第1騎兵師団並びに第41歩兵師団である。 この2個師団は、午前8時50分には海岸に到達し、艦砲射撃で破壊されたモンメロの森林地帯に分け入った。 砲撃前まで鬱蒼と茂っていた森は、海岸から内陸8キロの所までは砲爆撃によって大多数の木がなぎ倒されるか、激しく傷ついており、 遮蔽物らしきものは多数あったが、敵兵の姿は殆ど見受けられなかった。 上陸開始から1時間後の午前9時50分までには、奥行き3キロ、幅6キロの橋頭堡を確保し、この間に第31軍団と、 第15軍の部隊が上陸を開始していた。 午前10時になって、第1騎兵師団の先頭部隊がようやく、敵部隊と交戦したが、相手は銃火器らしきものを持っておらず、 戦闘は一方的となった。 この最初の戦闘では、マオンド側は騎兵突撃を行った騎兵1個中隊が丸ごと失われ、一方のアメリカ側は8人が飛んできた矢で 負傷したのみであった。 午前10時20分 ヘルベスタン領モンメロ アルトルートは、マッカーサーや幕僚と共に、上陸用舟艇に乗ってモンメロ海岸に向かっていた。 波はやや高く、舟艇は時折大きく揺れ、海水が船内に入ってくるのだが、不思議にも不快と感じる事は無い。 沿岸部には、既に上陸したアメリカ軍部隊が展開し、今しも内陸部に向けて進撃を開始しようとしている。 (これから、ヘルベスタンの解放が始まる。) アルトルートはそう思いながら、北西の方角に顔を向けた。 ヘルベスタン北西部にある反乱側の拠点では、早朝にマオンド軍が猛砲撃を仕掛けてきたと現地のスパイから情報が伝わって来た。 アメリカ軍は、マオンド側が反乱側の殲滅作戦を行うであろうと予測し、スィンク諸島に展開する第8、第10航空軍が全力を持って、 マオンド軍の包囲部隊を攻撃する事を決定した。 その反乱側の支配地域にも、マッカーサーの“贈り物”は届いている。 「待ってくれよ。もう少ししたら、会いにいくからな。」 アルトルートは、懐かしい人物の顔を脳裏に思い浮かべた。 彼が物思いに耽っているうちに、舟艇が海岸に到達した。正面のランプが開かれると、そこにはモンメロの海岸が広がっていた。 舟艇は海岸から約40メートルの所で止まったため、海岸まではまだ海水が張っている。 「付きましたぞ、殿下。」 マッカーサーが、顔に笑みを浮かべながら言ってきた。 「海岸までは海水が張っています。足を濡らす事になりますが。」 「なに、構いませんよ。」 アルトルートは張りのある口調で言った。 「民達は、今まで苦労してきたんです。ここでちょっと足を濡らすぐらいで不平を言っては、民に笑われてしまいます。」 彼の言葉を聞いたマッカーサーは、笑い声を上げてから分かりましたと答えた。 「では、行きましょう。」 マッカーサーはアルトルートの肩をポンと叩く。頷いたアルトルートは、先頭に立って歩き始めた。 その直ぐ後ろをマッカーサーらが追った。ランプから降り、足が海水に浸かる。 靴やズボンの裾が濡れてしまったが、アルトルートやマッカーサーらは気にする事なく進んでいく。 マッカーサーは、海岸の片隅に映像記録班が立っているのを見た。映像記録班のカメラは、マッカーサー達にしっかりと向けられている。 やがて、彼らはモンメロの海岸に上陸した。 「おい、軍曹!」 マッカーサーは、ジープの側で彼らの上陸を見学していた軍曹を見つけるや、手招きした。 「はい!何でありましょうか?」 「このジープに無線機とマイクはあるかね?」 「はっ。こちらに。」 軍曹は、車内からマイクを取り出した。 「少しばかり貸りるぞ。これからこのジープをラジオ局代わり使わせてもらう」 マッカーサーはそう言うと、マイクの調節を始めた。 「ふむ。これぐらいでいいかな。」 調節を終えたのを確認すると、マッカーサーはマイクに向かって喋り始めた。 同時刻 ヘルベスタン領トルトスタン ヘルベスタン領スタンレミから、西に約10ゼルド行った所にあるトルトスタン山脈の西側で、トルトスタン市の市街に立て篭もって いたとある反乱部隊は、昨日の夜に、森で拾ったアメリカからの“贈り物”に起きた異変を、驚きの眼差しで見入っていた。 「一体何事なのだ!?」 部屋の奥から出てきたのは、反乱軍の指導者であるゴルス・トンバルである。 「この不思議な機械から、声が発せられているのです。」 「声だと?」 トンバルは、部下達に群がられている贈り物・・・・もとい、無線機を見つめた。 「ヘルベスタン国民諸君!紹介が遅れたが、私はアメリカ合衆国陸軍大将ダグラス・マッカーサーである。諸君、我々はやって来た。 このヘルベスタンを、マオンドの手から解放するために!」 「アメリカ合衆国・・・・・まさか・・・・!」 トンバルは、その言葉を口にするや、体を震わせながら床にうずくまった。 「司令官!」 トンバルの身を案じた部下が、彼の元に歩み寄る。それを、トンバルは制した。 「いや、わしは何でもない。」 トンバルは、何ら異変を感じさせぬ、快活のある口調で部下達に言った。無線機の無効からは、マッカーサーと呼ばれる将軍の演説が続く。 「我々アメリカは、マオンドの同盟国であるシホールアンル帝国とも戦っている。私達が、このレーフェイル大陸に向けるべき戦力を 揃いきるまではかなりの時間が掛かったが、もはや備えのときは終わった。これからは、自由を踏みにじり、善を良しとせぬマオンドに 鉄槌を下すべく、我々アメリカは前に進む。ヘルベスタン国民よ!もはや、雌伏の時代は終わりを告げた。これからは、平和を妨げる 者達を排除し、私達と共に元のよきヘルベスタンを取り戻そう!」 マッカーサーの演説は、これまで耐えてきた反乱軍部隊。 いや、スパイの手によって意図的に無線機が設置された町の広場や、山中で隠れながら聞いていた国民達に熱く語りかけていた。 最初は不思議がっていた国民達も、マッカーサーの発する言葉の意味を理解し、そして思い始めた。 待ち望んでいた物が、ようやく来たと。 「私はこうして、あなた方の祖国、ヘルベスタンの地に降り立つ事が出来た。そのきっかけを作ったのは、何も私ではない。」 マッカーサーはしばし黙り込んでから、言葉をつむいだ。 「この国を救う真の要因を作り上げた人は、私の目の前に居る。私は、その人にマイクを渡す。」 部下達の顔が、一様に変わり始めた。部下達の大半は、アルトルートが生きている事を知らない。 彼らは、アメリカとう国の軍が助けに来てくれるとは聞かされていたが、アルトルートについては、一昔前に公開処刑された という情報しか知らされていない。 「ヘルベスタン国民諸君。私は、ヘルベスタン王国第4王子、アルトルート・ソルトである。」 アルトルートの名前が出た瞬間、無線機を取り囲んでいた部下達が驚きの声を上げた。 「司令官。これは一体・・・・・」 部下の1人が、トンバルに聞いてくる。トンバルは、感無量と言った表情で答えた。 「帰ってこられたのだ。アルトルート様が、援軍を率いて・・・・!」 「まさか・・・・アルトルート様は、4年前に処刑されたはず。」 「あれは、影武者だった。だが、本当のアルトルート様は、2年近く前に私の薦めでアメリカに渡った。」 トンバルの説明を聞いた部下は、それでようやく理解できた。 「私 は、この祖国を救うためにアメリカに渡った。私は、このヘルベスタン・・・強いてはレーフェイル大陸をマオンドの手から解放するのがどんなに大事か、必死 に説いた。その甲斐あって、私は今、この祖国に帰ってきた。ヘルベスタンの民よ、長い間待たせて申し訳なかった。私が居ない間、辛いことは多々あったであ ろう。だが、もはや我慢する必要はなくなる。私は、この祖国・・・・そして、レーフェイルの解放のために軍を派遣してくれたアメリカ合衆国に深く、感謝す る。そして、これからこのヘルベスタンを解放する。ヘルベスタンが、マオンドの手から完全に離れるまでは、今しばらく時間が掛かるが、それまでは、もうし ばらく待ってくれる事を、私は望む。最後に、私はもう1度だけ言う。私は帰ってきた。この祖国を救うために。」 その言葉を最後に、無線機からの放送は途絶えた。 「・・・・・・・・」 部屋に集まっていた部下達は、しばらくは押し黙っていた。 それから唐突に歓声を上げた。 「司令官!我々の努力は・・・・・ついに報われました!!」 副官が、感極まった表情でトンバルに言ってきた。 「うむ。決起開始から早2ヶ月。一時は絶望的とも思われたが・・・・・」 トンバルは言いながら、仕えていた王子の顔を思い出す。 昔は、奔放な子供だったアルトルート。その彼が、アメリカから救援軍を連れてきた。 アルトルートの苦労は、言語に尽くせぬ物があっただろう。しかし、決起部隊は、アメリカ軍の上陸まで持ち堪えることが出来た。 しかも、アメリカ軍が上陸した場所は、ここから南東に行ったモンメロという地域であり、そこから西側には、マオンド軍50万の 大軍が張り付いている。 この50万の大軍は、決起部隊を揉み潰すべく急派されてきた軍勢であったが、ここ最近は西海岸沿岸地域に張り付いていた。 だが、アメリカ軍がモンメロに上陸したことで、マオンド軍は図らずも、敵に後ろへ回られてしまったのである。 アメリカ軍が半島を縦断すれば、50万のマオンド軍は包囲殲滅の憂き目に会うであろう。 (陛下。あなたの息子は、ご立派になられました。ソルト家の血筋は、今も健在です) トンバルは、今は亡きアルトルートの父。フォストルート王に向けて語りかけていた。 午後2時 ヘルベスタン領レネスコ ヘルベスタン方面空中騎士軍総司令官であるロトウド・ネラージ大将が、ヘルベスタン統治軍総司令部に到達したのは、午後2時を回ってからであった。 ネラージ大将は、会議室に入るや、そのどんよりとした雰囲気に顔をしかめそうになった。 「遅れて申し訳ありません。」 彼は、遅刻した非礼を詫びながら、席に座った。 「では、これより緊急の会議を開く。」 議長役であるヘルベスタン方面軍総司令官、ルヴィング・トルマンタ元帥が、重々しい口調で口を開いた。 ネラージ大将は、こことは別の場所。つまり、彼の司令部でトルマンタ元帥と会っている。 その時は、ちょうど午前9時頃を過ぎてからの事だった。 トルマンタ元帥は、ネラージ大将と共に、今後想定されるアメリカ軍の空襲や、ワイバーン部隊の増援をどうするかを決めるため、空中騎士軍の司令部で話し合っていた。 その話の途中で、凶報が舞い込んできたのだ。 最初、トルマンタ元帥は取り合わなかった。 「ハハハ、何を言うか。アメリカ軍が上陸したのは北西部の沿岸であろうが。」 「いえ。モンメロです。」 「いや、北西部だ。」 「閣下、なにか異変でも?」 「ああ。アメリカ軍が上陸してきたと言うのだが、現地の魔導士が間違えて送ってきたようだ。」 ネラージは、報告文の内容が書かれた紙を無理矢理ひったくると、ざっと目を通した。 読み終わった時には、言いしれぬ恐怖感が沸き起こった。 「総司令官閣下・・・・・これは大変な事態ですぞ!」 ネラージは、声をわななかせながらトルマンタに言う。 「モンメロと言えば、昨日までは後方とされていた場所。そこにアメリカ軍が上陸したとなると」 「いや、そうじゃない。魔導士が敵の上陸地点を間違って送ってきたのだ。」 「このような重要な魔法通信で、地名を間違える事はありません!見て下さい、この数枚の紙を!」 ネラージは、6枚の紙面をトルマンタに差し出した。 「まぁ落ち着きたまえ。敵が上陸したとはいえ、ここからはかなり遠い北西部だ。」 トルマンタの言葉に、ネラージは背筋が凍った。 (・・・・この人は、既に思考が停止している!) 彼は、心の中でそう確信した。そして、無理も無いかとも思った。 何しろ、50万の大軍が張り付いているその後方に、敵の大軍が現れたのだ。しかも、自軍よりも遙かに優れた装備を持つ敵が。 結果は目に見えている。しかし、トルマンタ元帥は、考える事をやめてしまったのだ。 目を覚まさせねば・・・・ 「北西部ではありません。モンメロです!敵がモンメロに上陸したことは、この6枚の紙に書かれた報告文を見ても明らかです!」 その時、トルマンタ元帥は充血した目を見開き、恐ろしい形相を浮かべた。 「嘘だ!!!!」 執務室が割れんばかりの怒鳴り声が、ネラージに向けて放たれた。だが、 「嘘ではありません!!!!」 彼はそれを上回る怒鳴り声を、トルマンタに浴びせた。 「閣下!目を覚まして下さい!そして、これを見て下さい!確かに、敵は上陸を開始しました。ですが、これは裏を返せば、敵はまだ 本隊を上陸させていない事になります。閣下、今は現実から目を背けている場合ではありません。ここは、50万の将兵を救う方法を 考えるときです!このまま、何もせずに居たら、我々は後生まで恥をさらすことになります!」 ネラージは一呼吸置いてから、驚くべき言葉を発した。 「敵がモンメロに上陸したことは確実です。我々がこの場に留まれば、いたずらに犠牲を増やすだけです。かくなる上は・・・・・ ヘルベスタン領から兵を引きましょう。」 それから数時間が経った。 会議の参加者達に向けて状況を説明するトルマンタ元帥の表情は、4時間前と比べると、随分やつれたように思えた。 突然のアメリカ軍上陸の報に、計り知れないショックを感じたのだろう。 (アメリカ軍という敵が、このヘルベスタンに迫った以上。この領地の民達はアメリカ軍に味方するだろう・・・・もはやこの時点で・・・・・) ネラージは、内心で落胆していた。いつもは冷静沈着な彼も、今日ばかりはそうもいかなかった。 依然として、モンメロで兵力を増強しつつあるアメリカ軍。総攻撃に入った反乱軍鎮圧部隊に、突如として来襲したアメリカ軍機の大群。 そして、このような事が起きても、本国の上空にはB-29の編隊がやって来て、爆弾を落とす始末だ。 (マオンドの本当の苦難が始まったのだ。我々は、今までやりたい放題してきたが、そのツケを、ようやく支払わされる時が来たのだ。) ネラージは、憂鬱な気持ちでそう思った。 会議は30分で終わったが、参加者達の表情は、一様に暗く染まっていた。